情報誌「月刊レジャー産業資料」に取り上げられた投稿論文

 (2000年8月1日号:月刊レジャー産業資料No407)

「ライフスタイルの変化・流通業の動きにみる不動産の流動化」

「はじめに」

 バブル崩壊以降、長く日本に根付いてきた土地神話が揺らいできており、ここにきてようやく高いところから低いところに水が流れる如く業界関係者でない一般の人の目からみても、不動産が動き始めた感が見られる。多くの不動産の所有者が「もしかしたらこのまま所有していれば、今までのように再度土地が値上がるかもしれない」というすがるような思いから現実の状況を冷静にみつめ、認識を新たにして固定観念から脱却しつつあると言える。また、リストラなどやるべきことはやり、土地に手をつけなければならない状況に追い込まれた面も垣間見られる。歴史を振り返ってみても、江戸幕府から明治新政府への移行期しかり変化変革の時代には、必ずと言っていいほど変化変革のスピードについていけない人々が存在して、時には最後の悪あがきで反乱を起こす場合も見られた。不動産の流動化に関しては、反乱を起こさないまでも、当事者自身が時代は変わりつつあるということを肌で感じとるとともに実際に行動に移す段階に差し掛かっており、不動産が本格的に動き出す時代を迎えつつあるように思える。

 実際にここ数年の土地の公示価格をみても、総体的には下落の傾向が続いており、都心部などの一部の土地で値上がるなど二極化の様相を見せている。目に見える動きとしては、都市部における金融機関の閉鎖店舗、郊外の幹線道路におけるガソリンスタンドの閉鎖スタンドの跡地などに新業態の店舗が進出しており、さらに不動産の証券化も活発化してきている。

 また、不動産の流動化をみる上でかかせないのが、ライフスタイル、ビジネススタイルの変化である。7月の九州・沖縄サミットの主要議題の一つとして挙げられているIT(情報技術)がインターネットの普及も合い間ってわが国においても脚光を浴び浸透しつつある。私自身、1995年の初期の段階でインターネットを始めたが、ここ数年の急激な普及には目を見張るものがある。まさにドックイヤーそのものである。

 今回、ITによるライフスタイルの変化、流通業の変化を鑑みながら不動産の状況を探ってみる。

「流通業にみる不動産の動き」

 流通業に限らず、保有する本社、工場、寮・社宅、遊休地などを売ろうとする企業が増えている。そのような状況の中、西武百貨店が5月末に基幹店となる東京池袋店を証券化して売却することを決めた。また、マイカルグループも2004年2月期末までの店舗の証券化を従来計画に比べ30店多い40店の証券化を計画している。西武百貨店、マイカルグループともに、店舗を証券化して売却することで資産の流動化を図るが、営業は従来通り続けることになっている。店舗の証券化による調達資金の主な目的は、負債の穴埋めとして使われるが、今後の展開に向けての運転資金としても使われる。西武百貨店は、今秋愛知県岡崎市郊外にジャスコと共同敷地内にジャスコと西武百貨店の二つを核とするショッピングモールに出店することが決まっている。負債の圧縮とともに、郊外に百貨店を展開するなど成長戦略の動きも見られるとともに、自主開発の売り場を拡充するなど既存店の収益の足場固めも急いでいる様子が伺える。ユニクロなど専門店が勢いを増して勢力を伸ばしている中、まったなしの状態と言える。

 その他、大型スーパーの本社移転の動きをみると、ユニーグループがいち早く1993年秋に、名古屋から郊外にあたる愛知県稲沢市に本社機能を移している。ローコスト経営の先例と言え、本社機能移転により最終赤字が一転して黒字転換して以後5年連続して増収増益したということで話題を呼んだ。遅まきながら、再建に向けて今春、ダイエーと西友が東京都心部から都内の店舗へ本社機能を移転させる動きが見られた。ダイエーが、板橋区にある成増店の4〜6階に、西友が北区赤羽店の2〜4階にそれぞれ売り場を改装して本社機能を移している。本社機能を盛り込んだ各店舗は、売り場面積を減少しても客数が減少してなく、赤羽店などは黒字店舗に変わったなど本社機能効果が出ている。階下に行けば、常にお客様のいる現場があるということで、卓上の空論になることが防げ、本当に生きた戦略が打ち出しているものと思われる。これが本来の姿とも言える。また、本社機能が移転してきたということで、社内の従業員食堂ではまかないきれず、周辺商店街の飲食店が潤うというおまけもついている。このようなローコスト経営を余儀なくされている流通業界を尻目に、都心部ではIT関連企業が、本社機能、データセンター、コールセンターなどを一等地に構える傾向が見られる。

 土地を所有せずに借りるという視点では、定期借地権方式を利用した商業施設がここ最近賑わいを見せている。二つの施設を紹介すると、1997年11月に東京の亀戸にオープンした未来型の商店街を思わせるサンストリートは、15年間の暫定利用となっており、地価が高い地域では珍しい低層の利用となっている。また、1998年3月に横浜にオープンしたアウトレットモールの横浜ベイサイドマリーナは、10年間の暫定利用で、横浜ベイサイドマリーナの名前が示すとおり、海沿いに展開している。サンストリート、横浜ベイサイドマリーナともに実際に視察してきたが、土地は暫定利用だが施設そのものはしっかりと魅力的につくられていた。サンストリートは、土地の広さ以上の迷路のような散策が楽しめ、横浜ベイサイドマリーナは、物語性というかストーリーを持った建物展開がされていた。時間が限定される暫定利用の方が、意外に斬新なアイデアがうまく盛り込まれるのかもしれないと感じた。

「ライフスタイルの変化」

 ここ数年の日本人のライフスタイルの変化を考える際、若年層に引っ張られる面は多々あるが、“所有から利用”、“リアルタイム(即効性)”という二つのキーワードが根底を流れているように思われる。

 所有から利用に関しては、家や土地にしても所有にこだわらず、自分のライフスタイルを場面場面で変えていくような利用という考え方が前面に出てきているように思われる。従来の賃貸という響きには、何か暗さが感じられるが、これからの賃貸という認識は、エンジョイという明るさが感じ取れるのだろう。自動車にしても、従来の所有からリース、レンタル(レンタカー)を日常的に活用する面も出てきている。また、日本でも実験的に行っている欧州に見られる複数の人が共同で自動車を効率よく利用するカーシェアリングという考え方も徐々に浸透しつつある。

 リアルタイム(即効性)に関しては、携帯電話、インターネットの普及が大きく、「どこでもいつでも誰とでも」つながりやすい環境にあることが影響しているように思われる。言葉を変えれば、“せっかち”とも言える銀行サービスの今後。百貨店、スーパー、商店街などで買い物金額に応じてポイントがもらえるサービスがあるが、1年間溜めて豪華商品がもらえるというプログラムでは、よほど魅力がないかぎりソッポを向かれてしまう。季節毎とか1ヶ月とか1週間とか当日使えるなどのプログラムを設定しない今の消費者を満足させられないのが現状である。

 このリアルタイム性を可能にしている一つがインターネットであり、ネット上ではオンラインバンキング、オンライントレードなどが行われつつある。「はじめに」の部分で、金融機関の閉鎖店舗に新業態の店舗が入る動きを示したが、ATM等金融関連の動向は今後の不動産の動向含め都市部の金融機関のあり方に大きく影響を与えていくものと思われる。今現在、スーパー内への金融機関の進出のインストアブランチ、コンビニ内のATMの設置などが行われており、店舗の減少化に拍車をかけている。そして、現在限定的な利用可能のオンラインバンキングがサービスメニューも広がり一般的に利用されるようになり、さらにデビットカードを利用したスーパーなどの実店舗から現金が引出せる「キャッシュアウト」というサービスが行われるようになると今までの枠組みがガラッと変わることも予想される。(別図)

「おわりに」

 不動産の流動化に弾みがつきつつあり、バブル時に点々と空き地化された土地の再開発も期待されている。また、点々という視点では、空き店舗が点々と増えつつあるのが商店街である。定期借家権制度が今年3月にスタートして、オーナーがチャレンジショップなど商売をやりたい人たちに貸し出すことに弾みがつくことも期待されている。

 これまで見てきたように市街地における金融機関はじめ、流通業の本社機能などが動きつつあり、“まち”そのものが変革の時代を迎えていると言える。郊外へ郊外へと進出を進めていた流通業も、市街地への再見直しも図られており、駅構内におけるコンビニ、専門店などのオープンはじめ、市街地の再認識が図られつつある。

 ライフスタイルが変化していくとともに、市街地に立地する店舗、会社なども同様に変化を遂げていくものと思われる。今は、ちょうどその過度期を迎えているのではないだろうか。先ほど、大店法が廃止され新しく大店立地法が施行され、環境、交通などの社会的な面が重視されるようになってきた。同様に今後、不動産が流動化されていく上で社会的な視点がより求められるようになってくるものと思われる。不動産の有効活用を図っていく上でも、まちに訪れる人々の足となる未来型の路面電車と言われるLRT、バス専用道路のガイドウェイバスなど都市交通の整備も併せて考えていく必要があるだろう。

By Nagura

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