“スローフード”“地産地消”など
「食環境」を見直す動きについて考察する

記:2002.5.1

 昨今の“食”に関する牛肉偽装事件、食中毒事件、BSE(狂牛病:Bovine Spongiform Encephalopathy:牛海綿状スローフード脳症)問題など発生している中、消費者の“食”への関心や安全性が高まっています。そのような中、農家直営レストランが人気を集めています。農家直営レストランは、生産者が直接経営し、自らが作った食材を提供するものです。消費者にとっては、比較的安価に食べることができ、消費者が普段、機会が少ない農家との交流も楽しめます。食の安全性や食品表示に対する不安が高まっているのを背景に、生産者の“顔が見える”点が注目されていると言えます。

 また、食文化を見直す“スローフード”という言葉もよく聞かれるようになって参りました。ファーストフードという言葉は、今や日常的に聞かれ、ハンバーガー、牛丼、ホットドックなど皆さんもよく食されていらっしゃることと思います。ファーストフード(fast food)とは、言葉の通り、注文してすぐに供される簡単な食品の意味合いです。それに、対して“スローフード”とは、ファーストフードの反対とかファーストフードの不買運動などと思われがちですが、ただ単にそのような意味合いではなく、もっと“食”への文化や思想などまで含めた深い意味があります。スローフード(slow food)をそのまま訳せば、食事をゆっくりとることになりますが、後ほどスローフードの始まりから世界的な広がりまで紹介していきます。

 今回のコラムでは、今挙げました“スローフード”はじめ、“地産地消”“トレーサビリティー”“クラインガルテン”など食にまつわるキーワードを紹介しながら、“食環境”を考えていきます。

 スローフードの紹介の前に、ファーストフードの我が国における流れを追ってみます。1970年にファミリーレストランが登場し、そして、その翌年の1971年に今や全国で見られるようになったマクドナルドが銀座三越1階(銀座店)にオープンしています。ちなみに当時の価格は、ハンバーガーが80円、ビッグマックが200円、最も高値の1980年代前半でハンバーガーが210円、ビッグマックが360円、そして、現在はハンバーガーが80円、ビッグマックが250円となっています。その他、食に関するものとして、1971年にカップめんが登場し、これもまた今や全国津々浦々にあるコンビニエンスストアが1974年に登場しています。1970年代というのは、我々日本人の食生活を変革させるさまざまな動きがあったと言えます。そして、その後、日本は、1980年代にさらに成長を遂げ、1990年代に入るとバブルがはじけ、昨今の世の中不況と叫ばれる中、今回紹介する「食」に対する新たな動きが見られるようになって参りました。

 スローフードという言葉は、1986年にイタリアで生まれ、日本で本格的に広がり始めたのは1999年頃からです。スローフードの動きは世界的に広がり、非営利法人(NPO)のスローフード協会の会員は、全世界で約7万人を超えています。スローフードの具体的な活動として以下の3つが挙げられます。「消えてゆく恐れのある食材や料理、質のよい食品、ワイン(酒)を守る」「質のよい素材を提供する小生産者を守る」「子供たちを含め、消費者に味の教育を進める」というものです。生活の効率化、合理化がされる中、何か大切なものを失ってきたのではないかと人々が気づきはじめたことが、スローフード運動の広がりにつながっていると言えます。

 地産地消(ちさんちしょう)は、“地域生産 地域消費”の略語です。文字どおり「地域で生産されたものは、地域で消費する(使う)。地域で消費する(使う)ものは、地域で作る」という意味合いです。要するに、地産地消は、「地元で取れた農産物を地元で食べよう」という取り組みのことで、安全・安心・新鮮・おいしいなどのメリットがあります。また、安全で安心な食べ物を食することで、健康的で環境にもやさしい生活へとつながっていきます。さらに、生産者と消費者のつながりが深まり、地域のネットワークの構築にもつながっていきます。

 トレーサビリティー(Traceability)は、「農場から食卓まで」の安全な食品づくりの基準として、アメリカの農務省と食品医薬品局が打ち出した考え方です。トレーサビリティーは、生産履歴を追跡できるようにする意味で、日本でも一部の産地で取り組みが始まっています。食品の安全を確保するために栽培・飼育から加工、製造、流通などの過程を明確にしています。トレーサビリティーは、「安心を売る仕組み」として、スーパーや百貨店でも取り入れる動きが広まっています。イトーヨーカ堂は、大和鶴間店(神奈川県大和市)で、トレーサビリティーの野菜などを売るコーナーを設けています。だれが作ったどんな商品なのかなどが解説してあり、さらに詳しい情報が得たい方は自宅でインターネットにつなぎホームページを見ることで情報が得られます。

 愛媛県のみかん農家(農事組合の無茶々園:農家数約80戸)では、2年前からパソコンに生産履歴などのデータの入力し、情報公開をしています。みかん農家の声をひろってみますと「消費者に安心してもらえる食品づくりを、第三者に客観的に評価してもらうには、パソコンによるデータ化が最適と考えた」「消費者からの便りがよく届き、苦情もありますが、送り直すと丁寧なお礼がきて、消費者と温かい関係が、作る側にはうれしい」と話しています。仕組みづくりの一方で、消費者と生産者との信頼関係がより濃いものになっているようです。表示不信が高まるなかで、「生産者の顔が見える食品しか信用できない」という消費者も多く、「生産者の顔」に対する信頼をより確かにするのがトレーサビリティーと言えます。

 最後に、市民が農作物を作る場として注目されているクラインガルテン(滞在型市民農園)について紹介します。クラインガルテンは、ドイツで始まったもので、ドイツ語でKleingarten、直訳すれば“小さな庭”という意味で、これは、日本における「市民農園」にあたります。しかし、日本における市民農園というと、農地をテープで区切った数坪の土地で野菜を作るといったイメージが強いですが、クラインガルテンはこれとはだいぶ違った形態となっています。クラインガルテンの主な特徴は、外見的には一区画の面積が非常に大きく(数百平方メートル)、野菜だけでなく樹木や花であふれています。また、単なる菜園としてだけでなくコミュニティ形成の場としての機能ももっています。クラインガルテンでは、単に自家消費用の野菜を作るだけでなく、社会的、教育的な機能を有しており、自然との調和を目指して様々な取り組みが行われています。

 今回のコラムでは、“食”に関するキーワードを中心に見て参りましたが、“食”というのは“健康”とも密接につながっています。このような食環境を取り巻く関心の高まりは、これまで経済一辺倒できた時代背景の反動もあり、食の絡むさまざまな問題とともに、自分の住んでいる地域の再認識・再発見や健康意識の高まりも背景にあると思います。“スローフード”“地産地消”など、聞き慣れない言葉だけに、何か新しい取り組みのような感じを受けますが、取り組み内容や主旨などを見ていきますと、以前は日常的に我々が自然に行っていたこととも言えます。本来、当たり前に自然なこととお感じになられた方も多いことと思います。

 日本には、多くの国々からさまざまな食材が入ってきて、様々な外食産業も充実しており、自然の恵みや四季折々の旬な素材(野菜やくだものなど)というものの意識が、次第に薄くなってきているように思います。この機会に、“食”という視点で、地域の産物や四季それぞれの旬の素材など皆様方ご自身の日々の生活を取り巻く環境をこのあたりで一度じっくりと見つめ直し、再発見されてみてはいかがでしょうか。

By Nagura

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