日本画(山種美術館名品展を見て)の世界を考察する

記:2002.1.3

 昨年、名古屋市美術館で行われました企画展「山種美術館名品展・〜日本画うつくしきものの系譜〜」(2001年日本画/午年10月20日〜11月25日)を見て参りました。山種美術館名品展では、近代日本画を代表する29人(横山大観、東山魁夷、速水御舟、川端龍子、村上華岳、前田青邨、上村松園など)、70点の作品が展示されており、なかなか見ごたえがありました。なかでも、速水御舟(はやみぎょしゅう)の「炎舞(えんぶ):炎に蛾が舞っている様子を描いた絵」は、遠くからでも引きつけるような存在感があり、妖しくもあり鮮やかな絶妙なバランスが今でも印象に残っています。

 これまで日本画というものにあまり注目しなかったこともあり、これほど名画と言える日本画を一同に見る機会を得て、日本画の奥深さを感じた次第です。私自身個人的は、これまでフランス印象派(19世紀頃の移ろいゆく一瞬の印象を明るいタッチで光と色彩で捉えた絵画)の絵画を好んで見てきており、具体的に名を挙げますと、モネ、マネ、ルノワール、ゴッホ、スーラ、セザンヌ、ドガ、ゴーギャン・・・といった辺りです。印象派の絵画に関しては、シカゴ美術館メトロポリタン美術館(ニューヨーク視察のコラム上で記載)名古屋ボストン美術館などのレポート上で紹介しておりますので、合わせてご覧下さいませ。

 名古屋市美術館における「山種美術館名品展・〜日本画うつくしきものの系譜〜」は既に終わっていますので、本家本元の山種美術館(東京都千代田区三番地二番地 三番町KSビル1F)について紹介します。ご旅行や出張などで東京に行かれた際は、ふらっと寄られて日本画を堪能されてはいかがでしょうか。

 山種美術館は、「日本画」専門の美術館で、約1,800点にのぼる日本画を所蔵しています。山種証券(現 さくらフレンド証券)およびヤマタネの創業者・故山崎種二翁が長年にわたって蒐集した美術品の寄附により、山種美術財団を設立し、日本画の一層の向上普及を願って「近代・現代日本画専門の美術館」として1966年7月に中央区日本橋兜町(設備の老朽化に伴い1998年7月に現在の千代田区三番地も移転)に開館しました。山種美術館のこれまでの歩みは、各種の近代・現代日本画の展覧会を中心に事業を実施しており、美術界では高い評価を博しています。冒頭で紹介しました速水御舟の「炎舞」、「名樹散椿」、竹内栖鳳の「班猫」は重要文化財に指定されています。

 近代日本画発祥の地として、茨城県北茨城市五浦(いづら)が知られています。五浦は、「日本渚百選」や「残したい日本の音風景百選」に選ばれた景勝地でもあります。五浦と書いて“いづら”と読みますが、大小5つの入り江と切り立った崖が太平洋にせり出した地形がその名の由来となっています。ここ五浦は、寄せては返す波が岩にあたって砕け、ドーン、ザザーンと波み音が響き渡っています。
 近代日本画発祥の地といわれる由縁は、1903年に東京美術学校(現東京芸術大学)校長を勤めた岡倉天心が東京からこの地に移り住んだことから始まります。移住して間もなく、教え子であった横山大観、下村観山、菱田春草、木村武山といった画家を五浦に呼び寄せて、歩いて10分ほどの範囲にそれぞれの住居と共同のアトリエとなる日本美術院研究所を建てました。天心の指導のもと、創作活動に励んだ4人はここで、「流燈」(横山大観)、「阿房劫火」(木村武山)などの日本絵画史上に残る傑作を描いています。この地で、彼らは西洋画でもなく、伝統的な日本画でもない、その両者を折衷したような画風(朦朧(もうろう)体と言われた)を生み出していきます。しかし、100年前の当時は、五浦は関東北端の地(今でこそ東京から特急で2時間ほど)であり、彼らの移住を“都落ち”とからかう一派もあったそうです。当時は、今でこそ日本画の大家と呼ばれていますが、必ずしも評価されていなかったようです。現在、五浦には、日本美術院研究所跡が残っており、太平洋を一望できるところに茨城県天心記念五浦美術館が建てられています。また、近くには、岡倉天心の墓、岡倉天心邸、六角堂(瓦屋根づくりで天心自身が設計したと伝えられる)などがあります。

 東京という雑踏を離れ、五浦という風光明美な地で、新たな日本画を生み出していった活動は、彼らにとって大きな一歩(踏み台)になっていったのだろうと思います。海風と波の音が、新たな日本画の世界を生み出していったとも言えます。実際、彼らはこの地に1年半ほどというわずかな期間(彼らの評価が高まるにつれ、活躍の場が広がり共同生活は解消された形:天心は最後までここで暮らした)しかいませんでしたが、横山大観が晩年まで良く描いたモチーフ“黒松と岩肌と波しぶき”は、五浦で見た風景を連想させるものが少なくありません。

 最後に全国における美術館の状況をみていきます。美術館の新設もありますが、閉館したり縮小したりする美術館が相次いでいます。特に百貨店に属する美術館の撤退が目をひきます。東武美術館(東京・池袋)、千葉そごう美術館(千葉市)、小田急美術館(東京・新宿)などが活動を終え、今年3月には、伊勢丹美術館(東京・新宿)も閉館します。公立美術館のあり方も問われるなか、樋口廣太郎アサヒビール名誉会長が東京都現代美術館の新館長に就任しています。美術館経営が問題視されているなか、美術の世界に新しい風が流れることが期待されているのでしょう。

 相次ぐ美術館の閉館や美術館経営が問題視されているなか、明るい話題として、今年(2002年)4月1日から国立美術館、国立博物館の常設展示について小中学生の観覧料を通年無料(授業として訪れる場合は引率する教員も無料)にすることを遠山敦子文部科学相が明らかにしています。文化芸術振興基本法の成立を受けて、子どもたちが文化、芸術に親しむ機会を増やすのが狙いです。成熟社会を迎えつつある我が国において、“文化”“芸術”という分野のより充実が必要となってきているように思います。今回、国立に限り通年無料を打ち出していますが、小さい頃から親しむことは大切であり、美術館運営の難しい面はあると思いますが、良いものをいつまでも多くの人に見せていって欲しいものです。

By Nagura

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