日本の伝統文化“香道”を体験して

記:2001.10.1

 茶道、華道と並び日本を代表する伝統文化の香道(こうどう)を体験してきました。まず、香道では、香りを“聞く香道イメージ”と言います。皆様方、御存じでしょうか。“嗅ぐ”ではなく、“聞く”とは、ほのかにゆらぐ香りの中に繊細な趣きが感じられるのではないでしょうか。“聞く”には、“嗅ぐ”では、表現できない日本らしさというか精神性があるように思います。

 香りというものは、表現するのが非常に難しいです。香道においては、「五味」といい、基本となる香りを区別しています。挙げてみますと、甘(あまい)、酸(すっぱい)、辛(からい)、苦(にがい)、鹹(しおからい)というように、味覚を表す言葉に置き換えています。言葉による表現の難しさゆえに、香道は文学と深く関わっているのではないかとも言われています。

 まず、香道とは何かを説明しますと、香道とは、文字どおり香りを楽しむことを基本とした芸道で、茶道や華道と同じく、動作の中に精神的な落ち着きを求める日本古来のものです。その歴史は、茶道や華道と同じく室町時代にさかのぼり、香木を焚いて香を楽しむことは、聖徳太子の飛鳥時代からと言われています。香りと雰囲気を楽しむことで、風雅な遊び心の余裕を得るといった趣きがあります。
 今日、植物から抽出した油成分(エッセンシャルオイル)を温めて香りをたたせる「アロマテラピー」が注目されており、その香気を吸収することで、さまざまな医療効果も期待されています。香道は、日本古来の「ジャパニーズ・アロマテラピー」とも言えます。しかし、世界を見ましても「香り」を芸術にまで昇華させ、精神性を追求する芸道は他に見ないもののようです。日本ならではの“わび”“さび”の世界に合い通じるものがような気がいたします。

 古くより「香の十徳」といわれ、香が及ぼす肉体的、精神的な効用が伝えられています。十徳を挙げてみますと「感覚を研ぎ澄ます」「心身を清浄にする」「けがれを取り除く」「眠気を覚ます」「孤独感を癒す」「多忙時でも心を和ます」「沢山あっても邪魔にならない」「少量でも芳香を放つ」「何百年をへても朽ちはてない」「常用しても害がない」です。

 香道には現在、御家流と志野流の二流派があり、今回、志野流を体験してきました。先ほども述べましたが、この二流派はもともと室町時代に発祥し、途中から分かれました。大きく、御家流が貴族、公家の流派で、志野流が武家の流派と言えます。

 香道が、香そのものに火をつける線香などとの一番の違いは、間接熱で、煙を出さずに香り成分だけを立ち昇らせるといった点です。香道で使う香木は、東南アジアの島々で採取される数千年前の埋もれ木です。化石の一歩手前といったところでしょか。天然のものなので、資源に限りのある貴重なものです。貴重なものだけに、茶道や華道ほどポピュラーになっていないのかも知れません。香木は、含有樹脂の質と量で、7種類に分類されています。香りは、木によってもちろん違いますが、同じ木でも根元に近いなど場所によって変わってきます。

 今回、“香道”の体験では、歴史や文化を説明をお伺いするとともに、香席に呼ばれ、「組香」という優雅なゲームのようなものを体験してきました。香席とは、茶道でいう茶会のようなものです。香席では、作法にのっとって香がたかれ、客(連衆)たちは、香を聞きます。組香とは、何種類かの香を聞いて、その出てきた順番を当てるという例えはあまりよくありませんが、“利き酒”のようなものです。

 今回の「組香」は、2種類の香木を使って、13人(本来10人で行うものだそうですが、今回、参加者が多かったため13人となりました)で行われました。組香の名前は「月見香(つきみこう)」で、説明文としては「“月”として4包に認め、内1包み試し有り。“客”として3包に認め、無試し」と記載されています。文面を紐解きますと、2種類の香木にそれぞれ“月”と“客”という名前が付けられ、“月”という香木から香りを焚くために削った包みが4つ用意され、そのうちの1つは、試しに香りを聞くことができ、“客”というもう1種類の香木から削った包みが3つは、試し無しという意味合いです。
 「組香」の流れとしては、まず、試しができる“月”の香木を焚いて、一巡してそれぞれ各自が香りを聞きます。この“月”の香りが基本となるため、しっかり香りを覚える必要があります。そして、本来のゲームが始まるわけです。“月”と“客”それぞれ3包ずつある合計6包の中から、3つ取り出してその香りを聞いて“月”か“客”か当てるというものです。説明してしまいますと、実に単純でわかりやすいものですが、単純なだけに、行ってみると意外に真剣になりました。組み合わせ的には、すべての香りが月の場合もありますし、客の場合もあるわけで、8種類となり、当たる確率は、8分の1ということになります。
 自分の座っている前には、筆と墨、そして、月か客か書く紙が置かれています。3回、回ってくる香りを聞き、その紙に“月客月”などと筆で書いていきます。香りを聞くというそのものの行為も風雅ですが、各自が3回香りを聞いた後、全員の結果を1枚の大きな紙に筆で書いていく文字(言葉)がまた風流です。「月見香(つきみこう)」という組香の名前だけに、月が3つの“月月月”は、十五夜、月のまったくない“客客客”は、雨夜、“客月月”は、十六夜、“客月客”は、木間月、“客客月”は、残月、“月月客”は、待宵、“月客月”は、水上月、“月客客”は、夕月夜と書かれ、一つ一つ見ているだけでも奥深いものが感じられます。
 まあ、結果を言いますと、私は2つ当たりましたが、パーフェクトとまではいきませんでした。コーヒーを製造しているAGF(味の素ゼネラルフーヅ株式会社)に勤めていらっしゃる方は、さずがに仕事上香りが重要なコーヒーだけにすべて当てていました。日頃の香りに敏感かどうかが問われたとも言えます。また、男性より女性の方が当たる確率が高かったように感じました。

 皆さんも一度“香道”を体験されてみてはいかがでしょうか。ちなみに、服装は、特にかしこまった決まったものはなく、礼を失しない程度でOKです。注意しなければいけないのは、香りを消すものに気をつけることです。ですから、香席の前日にぎょうざやにんにく、そして香辛料の強いカレーなどは避けた方が良いでしょう。また、当日は、特に女性の方ですけど、香水はつけないようにし、革製品の装身具なども匂うので避けた方が良いでしょう。

 皆様方も、アロマテラピーとは一味違った室町時代から続く伝統の優雅さを味わってみてはいかがでしょうか。香り本来の“聞く”ということが実感できると思います。この慌ただしい世の中、ちょっと視点を変えて、優雅に“香りと遊ぶ”ことで心にゆとりも生まれることと思います。

 最後になりましたが、このコラムを書いておりまして、ふと私の地元にある丈山苑が思い浮かびました。デンパークの近くにあり、本格的な和風庭園と書院が独特のくつろぎとゆとりの空間が売りのところです。風流、風雅の世界を堪能できるとともに、静寂のときが流れています。ゆとりという観点から“香道”に通じるものが感じられます。(紹介しました丈山苑、デンパークは、視察レポート上で紹介してありますので、合わせてご覧いただけましたらと思います)

By Nagura

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