コミュニティ・ビジネスを考察する

記:2001.6.2

 先日、“骨太の方針”を発表したばかりの政府の経済財政諮問会議ですが、5月(2001年)初めには、国の新しいコミュニティビジネスの特徴政策目標として検討している雇用創出策の提言案を明らかにしています。それをみますと、規制緩和により、教育、福祉、医療など11の分野で市場を拡大し、日本経済のサービス化を加速させて約500万人の雇用を新たに生み出すという目標を提示しています。その中に、健康増進サービスで140万人、人材派遣・情報技術(IT)関連などの企業向けサービスで80万人、個人向け・家庭向けサービスで55万人、子育てサービスで51万人、環境関連サービスで30万人などに混じって、地方の特色を生かす「コミュニティ・ビジネス」で10万人の雇用の創出を挙げています。

 コミュニティ・ビジネスは、全国的に増える傾向にあり、経済産業省も地域活性化策の一つとして注目しています。コミュニティ・ビジネスとは、一言で言えば、「顔の見える関係のなかで成り立ち、自らの地域を元気にする住民主体の地域事業」です。そして、今までの企業と大きく異なる点は、必ずしも利益追求を第一としていないことです。適正規模、適正利益のビジネスであり、地域や人のためなど志をもって、意義や意味を追求していこうという意識面が高いです。儲けより理念を尊重していると言えます。また、営利を第一とするビジネスとボランティア活動の中間領域的なビジネスとも言えます。あと、コミュニティ・ビジネスの事業展開を行うにあたっては、事業展開の視野はグローバルな世界的な視点で地域事業展開の考えを持ち、行動そのものは、ローカルな地域に根ざした形で行っていくというバランス感覚が必要と言えます。

 コミュニティ・ビジネスは、いわゆる大企業では採算が合わなく、行政サービスにもなじまないきめ細かなサービスにこたえていこうというものです。行政そのものの財政が苦しいなか、これから重要な役割として期待されています。アメリカでは、大企業からリストラ・レイオフされた約1700万人のなかから、コミュニティ・ビジネスの担い手が生まれていったという流れがあります。現在、日本のおけるコミュニティ・ビジネスの取り組みを少し挙げますと、どこからどこまでをコミュニティ・ビジネスとして捉えるかという明確な区分の難しい面はありますが、住民主体という視点では、市民の手によってつくられ運営されているミニシアター「シネ・ウインド」(新潟県新潟市)、地域住民に対して、清掃、植栽、修繕など暮らし全般に関する事業を行っているNPO・FUSION長池(東京都八王子)、地域の工場や商店の情報化を手助けする有限会社すみだリバーサイドネット(東京都墨田区)などあります。形態そのものは、個人であったり、市民団体、NPO・有限会社などの法人形態であったりしますが、最初のきっかけはどれも、一人の問題意識をもった人間が地域の活動から入って徐々に応援する仲間が増えていく流れが多いです。ですから、何もコミュニティ・ビジネスを立ち上げようという強い意思があったというよりも、地域のために何かしたいという人がボランティア活動を通して、コミュニティ・ビジネスにつながっていくケースが多いです。

 コミュニティ・ビジネスが注目されてきている背景には、住民自身が自分たちの地域のことを考え、自分たちの暮らしの仕組みを考えるようになってきている流れがあり、衰退したコミュニティの再生を望む人々が増えてきていることが挙げられます。日本の歴史を振り返ってみますと、もともと江戸時代には「結」とか「講」などと呼ばれるコミュニティがあり、資源循環型社会ができており、相互扶助の仕組みが機能していました。戦後、経済の再生・復興・拡大を目指して突き進んでいく中で、徐々に失われていき、ここにきて見直す動きが出てきているのが現在ではないでしょうか。流れとして、ボランティア元年と言われた阪神大震災の際の復興の助け合いが、地域というつながりの大切さを再認識するターニングポイントになったのではないかと思います。

 先日、テレビで世界遺産に登録されている白川郷の合掌づくりの家の屋根の葺き替えを何十年ぶりに、地域の人々の助け合いや全国のボランティアによって行うことができたというドキュメンタリーをみました。白川郷では、昔は皆が合掌づくりの家に暮らしており、互いに地域内の家が葺き替えする時には、助け合っておこなっていたそうですが、若者が都会に出ていったり、合掌づくりの家から通常の家に建て替えなど今ではほとんど行われてなく、業者に頼むと数千万ほどかかり、先祖代々の合掌づくりの家をやむなく取り壊すという場合もあるそうです。白川郷の屋根の葺き替えの取り組みをみていましても、ただ古い集落の建物を保存するというハード的な面だけでなく、地域に伝わる人間的なふれあい、心意気の面などソフト的な地域の良さを見直そうという動きは注目したいところです。

 今回、コミュニティ・ビジネスについて取り上げてみましたが、言葉そのものは目新しい感じはしますが、昔からある「結」とか「講」など、近所の助け合いの精神、風土的なものが受け継がれているものです。昨今、出会い系サイトなどいわゆる顔の見えない関係が社会問題化されていますが、今、まさに過度期であり、地域における顔の見える関係の回復が望まれており、さまざまな地域で取り組みが行われてきています。そして、“コミュニティ・ビジネス”という言葉には、昔ながらの地域のコミュニティをさらに前進させた新たな開かれたコミュニティの形成も期待されています。言葉の表現は的確ではないかも知れませんが、地域に長年暮らしている人たちだけの顔に縛られた感じの堅苦しい人間関係を超えた新たな多くの人たちを呼び込む新しい地域コミュニティの形成もこれからどんどん起こっていくのだろうと思います。コミュニティ・ビジネスによる取り組みが、本来我々がもっている人と人のつながりを掘り起こし、新たな地域づくりへつながっていくことを期待しております。

By Nagura

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