“からくり(人形)”の魅力を探る

記:1999.10.23

 日本における「からくり」は、聖徳太子の摂政時代(593年〜622年)以降、遣隋使、遣唐使などにより、からくりイメージ技術として移入されたことが始まりと言われています。それらの技術が江戸時代になり、華開いて普及・発展していきます。

 江戸時代の初め、欧州から機械時計が伝来し、この機械時計に用いられていた歯車やぜんまい、滑車などを応用して、さらに糸を操って山車(だし)の上で動かしてみせたのです。
 “山車からくり”というと岐阜県の高山祭が有名ですが、実は、愛知県には、全国に残っている山車からくりの7割ほどが集中しており、もっとも山車からくりが盛んなところだったようです。もっと細かく見ていけば、愛知県と言っても名古屋を中心とする尾張地方に集中しています。もう一方の愛知県東部の三河地方では、知立(江戸時代に東海道池鯉鮒宿があったところ)に浄瑠璃に乗せてからくりが廻された人形浄瑠璃が起こっています。山車の上で人形が動くことで観客を惹きつけたからくりが、浄瑠璃の語りに乗って廻されることで筋のある物語を演じることができ、さらに魅力が倍増し、山車からくりとしては、もっとも発達した形と言われています。

 上の画像は、秋の犬山祭(愛知県)における車山(やま)からとりはずして飾ってある“からくり人形”を写したものです。犬山では、“山車(だし)”と呼ばずに“車山(やま)”と呼ばれています。また、地方によっては、鉾(ほこ)、屋台(やたい)、車楽(だんじり)とも呼ばれています。
 犬山祭は、春と秋に行われており、春がメインで13台の車山が繰り出され、華やかなのに比べ、秋は、車山が1台展示されるだけですが、からくり人形部分だけがずらっと並べられます。通常、車山の一番上の部分でからくりが演じられており遠巻きながら見ることになりますが、秋は真近でからくりを見ることができるというメリットはあります。実際に、13あるからくり人形は、順番に上演されていきます。私は、実際に3つほどのからくりの上演を目の前で見てきました。車山の上にあると小さく見えますが、目の前で見ると思った以上に大きく迫力がありました。春の犬山祭の様子は、視察レポート「雄大な川と城の“まち”犬山を訪ねて」で紹介してありますので、よろしかったら併せてご覧いただけたらと思います。

 この日、犬山市内にある「犬山文化資料館」と「からくり展示館」も併せて見てきました。「からくり展示館」には、からくり人形師9代目の玉屋庄兵衛さんの工房があり、実際に玉屋庄兵衛9代目本人によるからくり人形の実演を見てきました。「茶運び人形」の実演とからくりの動きの詳細について説明を受けました。もっとも感心したのが、「弓弾き人形」です。人形が弓を取って、そしてその弓を弾き、的に向かって矢を放つという一連の動作をすべてからくりで行っているのです。弓を構えて、放つ前には、的を確かめるように首を傾ける細かいしぐさもあり、なかなか芸細やかです。

 また、南山大学・安田文吉教授の「からくりの魅力を探る」という講演も聞いてきました。その中でも興味深かったのが、山車からくりに関するさまざまな職人が、名古屋(当時:尾張)に集まってきたという史実です。そもそもは、京都(当時:京)の職人を呼んでつくっていたところ、そのまま名古屋に住みつく形で“からくり”の盛んな地域になっていったようです。からくり、友禅にしても日本の伝統文化は、京都から伝わってくるものが多く、今でも距離的にも近いということもあって、名古屋、京都の交流は盛んなようです。
 それに関連して、もう一つ興味深い話が、江戸時代ではなく、近代においてトヨタ自動車の起源ともいうべき、織機を生みだした豊田佐吉が名古屋に出てきたことです。生まれは、静岡県(現在の湖西市:愛知県に近い)なのですが、事業展開場所として、名古屋を選んでいることです。京都の職人にしても豊田佐吉にしても、単純に名古屋が近かったという面はあると思いますが、この地域は、昔からどっしりと腰を落ち着けて“ものづくり”を行うのには、適した風土があるのかも知れません。

 江戸時代に名古屋を中心とした城下町文化として華開いた“からくり”は、現在のこの地方のロボット産業、自動車産業などの“ものづくり”に脈々と受け継がれています。しかし、愛知県の工業生産出荷額はトップを走り続けているとは言っても、“ものづくり”離れ、技術の伝承という面で危機感が持たれています。
 それに対する愛知県内の取り組みを見ていきますと、行政レベルでは、産業観光・産業遺産面を押し出し、からくりコンテストの開催などが行われ、企業においても“ものづくり”の力を強化し若手社員に伝える「ものづくり原点工房(アイシン精機)」という試みも行われています。生産現場の原点を知ることで、ものづくりに対する意識変革をうながしているようです。他社においても、旋盤、研磨などの匠の技(わざ)を持った高齢者社員(退職者社員も含む)の活用も行われています。
 全国レベルにおいても、労働・文部省が共同で、小中学校や普通高校に熟練技術者などを派遣して、“ものづくり”の楽しさや素晴しさを教える(来年度モデル校選定、2001年度をメドに全国に広げる計画)ことを決めています。
 今回、秋の犬山祭、玉屋庄兵衛9代目の実演、南山大学の安田教授の話などをお伺いしましたが、300年以上前にあれだけ精巧な“からくり(人形)”をつくったことに驚きました。今、“ものづくり”の危機感が高まっていますが、まずは“からくり”などの伝統芸能の技を実際に見て“感動”することが、第一歩ではないかと思います。それに、加えて、実際に体験できたらなおさら良いと思います。皆様方も命を吹き込まれたように滑らかに動く“からくり(人形)”の華麗な動きとともに、それを動かす匠な技を感じに祭などに出かけてみてはいかがでしょうか。

By Nagura

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