風情・伝統ある“古い民家”への関心の高まり

記:1999.6.3

 最近、古い民家が見直されてきています。古い民家をそのまま保存するだけでなく、老朽化や再開発など民家イメージで失われていく古い民家を移築して保存したり、木材を再利用したり、現代生活にあった形に再生したり、古い民家そのものをアート作品に仕上げたりなど、さまざまな動きが広がっています。今回のコラムでは、そのような動きを少し追ってみたいと思います。

 日本の住宅の寿命は、通常25年〜30年と言われています。しかし、優れた技術で建てられた木造家屋は、適切な管理下においては、100年、200年の寿命を保ちます。たとえ、寿命がきてしまった木造家屋でも、丁寧に解体し古材を再利用することで、古い民家に集積された技術を学び、新たな建築文化創造にもつながっていきます。各地で、より幅広い視点からの活動の輪が広がりつつあります。
 古い民家と言いますと、世界遺産に登録された白川郷などの合掌造りの集落を思い浮かべる方が多いことと思います。ある建築家の方が古い民家の位置付けとして、「その土地の自然の恵みである木材を使って、気候風土に合わせて建てた家で、築80年くらいからと考えている」というコメントが載っていました。現在、新建材を多様した家が多い中、なかなか的を得た言葉であると感心した次第です。我々が、古い民家に、風情を感じ、伝統を感じ、“木”がかもす安らぎを感じるのも、その土地の自然、気候にしっかり溶け込んでいるからだと思います。そして、どっしりとした根がはえたような安心感(安らぎ)を古い民家から感じるのではないでしょうか。

 古い民家に関心を持つ人々による団体を見ていきますと、江戸時代以降、昭和期までの古い民家を次代へ引き継いでいこうという「日本民家再生リサイクル協会(本部:東京)」では、各地で一般の人を対象にした古い民家の見学会を実施しています。具体的な事例を挙げますと、三重県青山町に計画中の川上ダムの底に沈む古い民家38戸(200年以上の歴史を持つ集落)のうち、協会が提案した移築保存に同意した3軒を見て回っています。「まだ使える家を引き取ってくれるなら提供したい」と考える所有者に引き取り希望者を仲介し、移築保存を実現するねらいがあります。費用は建物の大きさや立地場所によって違ってきますが、ある民家の場合は、解体費用だけで約400万円かかったそうです。しかし、現在では手に入りにくい立派な古材や民家への人気は高いようです。見学会開催が事前に新聞に載りますと、問い合わせの電話が数日間鳴りっぱなしということです。
 取り壊す予定の木造建築を調査して情報を希望者に紹介したり、古材を使っての家づくり相談に応じたりするなどの活動をしている「古材バンクの会(本部:京都市)」では、会員が北海道から鹿児島まで約300名に上っています。

 今年(1999年)4月に名古屋城東側の黒塀の民家が連なる一画(白壁・主税・橦木地区)において、実際に人が住む古い民家をそのままアート作品に仕立ててしまおうという珍しい試みが行われました。民家を舞台にした展覧会は全国各地で見られますが、実際に人が住んでいる住居を一般に開放し、家全体を作品とするのは珍しいのではないかと思います。この辺りは、江戸時代には城下町として栄え、明治以降は輸出陶器の関連業の中心となって、名古屋の商人たちが屋敷を構えたという歴史を持っています。豊かな日本庭園、茶室のいろり、縁側の大きな淘の柱など生活のエネルギーそのものがアート作品となっていた模様です。また、この白壁地区の建築を“校舎”にしながら、3〜4カ月単位で講義を開く市民塾「白壁アカデミア」も市民の自主運営で昨年(1998年)秋から始まっています。“住まい”続け、使い続けることで古い民家に生命を吹き込む模索が、市民塾を通して次第に広がりを見せているようです。

 最後になりましたが、今回にコラム上で掲載しています3分割の画像の説明を加えておきます。右上が有松絞りで有名な名古屋市有松の宿場(町並み)、左上が円頓寺商店街(名古屋市)の軒道の路地を少し入った屋根の上に小さな社が祭ってある民家、下全体が、「木曽路はすべて山の中である」と詩われている長野県妻籠(つまご)宿を写したものです。ここに挙げました3つのポイントは、視察レポートにて紹介してありますので、ご興味のございます方はご覧いただけたらと思います。

 今回古い民家の取り組み、活動を見て参りましたが、これだけ古い民家が注目を浴び、見直されている背景には、日本文化そのものを見てみよう、見直そう、勉強してみようという人々の思い(気持ち)が高まってきている現れだと思います。生命の息吹が感じられる古い民家を大切にしていくとともに、生活の息吹そのものを次の世代に伝えていきたいものです。

By Nagura

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