工事現場を“演出”する手法、日本でも流行る?

記:1999.4.5

 4月を迎え、寒工事現場演出イメージの戻りも解け、桜満開の春の陽気につつまれています。空気そのものも軽く感じられ、本当に気持ちのよい季節になって参りました。外を歩いていましても、ビジネス街では、真新しいスーツ姿の大勢の若者たちが希望に満ちた顔で濶歩している姿が見られます。また、プロ野球のペナントレースも始まりました。個人的にドラゴンズを応援しており、今年は、戦力的に見ても優勝の可能性を秘めているだけに、1988年に味わった優勝気分を再び味わえるような予感もいたします。

 それでは、今回のテーマに掲げました“工事現場を演出する手法”の試みを見ていきます。工事(建設)現場を本格的に“演出”する試みが金沢の商店街において始まろうとしています。首都移転のベルリン(ドイツ)はじめ欧州では、珍しくない手法ですが、日本においてはまだまだなじみが薄いようです。

 今回、工事現場を“演出”し、景観に配慮しながら工事を進めるモデル事業に取り組もうとしている商店街が、石川県金沢市の中心部にある堅町商店街です。商店街のモール化事業として、今年(1999年)8月に着工して、11月の完成を目指しています。事業概要としては、約500メートルの区間に渡り、アーケードを新設したり、広場や街灯整備、店舗のセットバックなどが計画されています。このモール化事業は、中心市街地活性化のために、金沢市が地元商業者などと設立したタウンマネジメント機関(TMO)「金沢商業活性化センター」の事業の一つです。

 具体的な工事現場の演出を見ていきますと、商店街の中心部に工事完成後の商店街の一部の模型が展示されます。そして、工事をしない昼間(主に夜間に工事)は、アスファルトを敷いた着工区域と未着工区域で外観が食い違いによる美観が損なわれるのを防ぐために、商店街の真ん中を通る道路全面をじゅうたんで覆います。
 また、工事作業員は、カラフルな見栄えのいい作業着や商店街のロゴマークをあしらったヘルメットなどを身につけるようです。一般的によく見られる“業者が頭を下げたイラスト入り”の工事現場の看板も、完成予想イラストの入ったものに変更が予定されています。

 後半部分で、首都移転のベルリンにおける事例を紹介しますが、欧州などにおける試みと比べてしまいますと、ダイナミックさ、市民参加型という面では、もっと“演出”を前面に出してはどうかという感じもいたします。しかし、現在日本各地で見られる殺風景になりがちだった工事現場の印象を変えるきっかけにはなり、このような動きが各地で広がって行けば、地域住民、現場サイド双方の認識が大きく変わっていくことと思います。金沢の堅町商店街の場合、入札はこれから(5月ころ)で、工事業者にも協力を求めるといくということですから、まだまだ、いろいろな企画・案がでてくる可能性はあります。
 今回の取り組みは、日本においても、工事そのものを活用して何とか中心市街地の活性化に結び付けていこうという意気込みは十分に感じられます。現在、日本の商店街の多くが空洞化に苦しんでおり、今回の金沢の試みを注目しているだけに、今後全国的に広がっていく可能性も秘めています。

 それでは、ベルリン再開発の建設現場をショーにした取り組みを見ていきます。まず、歴史背景を紐ときますと、第2次世界大戦により、日本と同様敗戦国となり、ドイツは西と東に分断され、その後、1989年のベルリンの壁崩壊まで同じ民族にもかかわらず社会体制の違う状態が続きます。そして、東西ドイツ統一後、1991年にドイツ連邦共和国の連邦会議にて首都をベルリンとし、1998年から2000年にかけて、順次政府機関施設を移転することが決められます。
 ドイツ統一と首都移転の動きを受けて、官民交えて大規模プロジェクトの話が持ち上がり、東西分断の象徴だった緩衝地帯の広大な空間の開発が進められていきます。40年以上空白だったポツダム広場に次々と新しい建物ができ、主なものを挙げてみますと、政府機関以外でダイムラー・シティ、ソニー・センター、グランド・ハイアット・ベルリン、ユダヤミュージアム、オリンピック・ヴェロドロームなどがあります。

 昨年(1998年)10月にオープンしたダイムラー・シティは、その名の通り、今はダイムラー・クライスラーとして合併していますが、ドイツ最大企業だったダイムラー・ベンツが開発したショッピングセンター、映画館、レストラン、ホテル、カジノなどが入った複合大型施設です。
 ベルリンを再開発していくに際して、見学ツアーを組織し、工事中の現場でイベントを開くなど矢継早にPR活動を用意したことについて、ベルリン市とダイムラーは、再開発を成功させるために「市民を建設現場に参加させる」ことが有効だと判断したと述べています。各プロジェクトの模型など現場情報を豊富に提供する「インフォボックス」には、建設期間中(1995年10月〜1998年9月)に、532万5千人が訪れました。単なる工事現場を見るだけでなく、環境意識の高いドイツだけあり、廃棄物の処理などについても公開(演出)の対象に及んでいます。
 中でも目を見張ったのが、水中での防水コンクリートの止水壁作業だったようです。巨大な池を掘って、ヨーロッパ各国から集まった80人にも及ぶダイバーが水深19メートルで作業をする様子を見るために市民が集まってきたということです。まさに一種のショーといった感じです。なぜこのような作業になったかといいますと、ベルリンの地下水は水位が地下2〜3メートルと浅いため、地下工事にたいへんな負担が生じたわけです。旧ポツダム通りの街路樹を保存し、隣接する公園の地下水位を下げないために、地下を掘削して排水することもできなくて、水中での防水コンクリートの止水壁作業となったわけです。作業そのものにも、ドイツならではの価値観が働いており、素晴しいと思います。

 今回、コラムを通して、“工事現場を演出する”という視点で、金沢の堅町商店街のこれから行う取り組みとベルリンにおける再開発の事例を見てきました。日本においても環境問題が市民レベルで真剣に取り組まれてきていますし、“工事現場を演出する”取り組みが市民を巻き込んで広がっていくことは好ましい方向だと思います。

 その時にやはり大切なことは、ベルリン再開発の事例の中でも出てきましたが、再開発なり中心市街地の活性化などを成功させるために「市民を建設現場に参加させる」という姿勢です。よりよいものを市民と企業・行政が開かれた中(情報開示)で一体となって進めていくことがより求められてきています。
 そして、プロジェクトを進めていく上での行政・企業の環境、防災などへの取り組み姿勢とともに、市民においても、生活者としての環境、防災などへの考え方が問われてきます。もっと広く捉えますと、行政・企業・市民に関わらず、ひとりひとりの姿勢が問われる時代を迎えつつあります。

By Nagura

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