“まち”に変化を呼び起こす“地元学”とは?

記:1999.3.21

 名古屋市が野鳥の楽園でもある“藤前干潟”をごみ処分場にしようとする計画を断念し、自ら「ごみ非常事態宣言」(1999年2月18日)を出してか地元学まちづくり学イメージら1カ月余が過ぎようとしています。その間、新聞の全面広告で現状を訴えたり、市の減量推進室の職員らが「ごみGメン」になって監視するなどの取り組みが行われ、先日のニュース・新聞の報道によりますと、予想以上にごみ減量の効果がでているようです。逆に考えますと、今まで如何に“ごみ”というものについて関心を図ってこなかったとも言えます。
 詳しいデータを少し見ていきますと、ごみ非常事態宣言を出した翌日から3週間の間で可燃ごみの量が前年度同期比で8.5%減っています。また特に目を見張るが、昨年(1998年)4月から11月まで前年度を上回る勢いで増えていたごみの量が、藤前干潟の行方が注目され始めた12月から減っているのです。12月は前年度同期比で6.7%減、1月は7.7減、2月は8.3減、そして非常事態宣言を出してから3週間で8.5%減と減少幅が徐々に拡大してきています。このことは、名古屋市がごみ非常事態宣言を出す以前から、市民、企業などが自主的に何とかしようという気持ちが表われており、その努力が次第に成果となって出てきているように思います。
 その中で、非常事態宣言以前から商店街自らごみの自主回収に乗り出しているところを一つ紹介します。名古屋市中村区にある新大門商店街では、瓶や缶、古紙などの資源ごみを自主回収をするだけにとどまらず、ペットボトルではなく、瓶を使うことを勧める「ペットボトルはカッコわるいヨ!」キャンペーンも始めています。これは、リサイクルの処理費用が高いペットボトルより、再使用できるリターナブル瓶をもっと使ってもらおうという考えからです。市民団体と協力してリサイクルに回すなど市民をも巻き込んだ新大門商店街の取り組みは“自分たちの住んでいるまち(地域)は自分たちで良くしていこう”という意気込みが感じられます。また、この活動を知った小渕恵三首相からは激励の電話がかかってきたそうです。21世紀に向け、市民参加・市民参画の時代を迎えるにあたって、さまざまな場面で藤前効果が出ているようです。

 それでは、本題の“地元学”とは何かということについて触れていきます。地元学を一言で言いますと、まず自分たちが住んでいる地域のことを自分たち自身がよく調べ知ることにより、この地域がどうなっていけばいいのかなどが次々と見えてきて、それを具体化していこうという技法です。
 この“地元学”は、熊本県水俣市の職員であり水俣で生活している吉本哲郎さんが提唱し、実際に実践しているものです。水俣市と言えば、高度成長時代の日本における公害問題の一つとして、社会科の教科書などにも出てきました“水俣病”で苦しんだ地域でもあります。歴史的な事件として記録された水俣市では、今、“水俣病”というたいへんな経験を乗り越え、環境の再生へと取り組んでいる人々の暮らしを「文化遺産に登録すべきだ」という提案がでるほど卓越した生活文化を持ち始めています。それでは、実際に水俣市の“地元学”の取り組みを見ていきます。

 水俣を環境自治体に向かわせた原動力は、“水俣病”という負の遺産にありますが、それを実現させるための方法として使われたのが“地元学”という技法です。水俣では、集落や字(あざ)を基準として、地域をおよそ26の自治組織に分けられていますが、この自治組織とは別にそれぞれの地域に地元学を実践する「もやい直し」という会がつくられています。この「もやい直し」という名前には、水俣病によってばらばらになってしまった人々の心をもう一度結び直そうという思いが込められています。
 「もやい直し」の会では、先程述べました“自分たちが住んでいる地域のことを自分たち自身がもっとよく知ろう”ということが根底にあります。住んでいる地域のことをよく知ろうと思い立った経緯には、「住んでいる人自身が、地域のことを調べないと結局外の人のほうが詳しくなって、自分の地域のこと、自分自身のことも分からなくなってしまう。分からないから、結局、外の人が自分たちの住む地域のこと、地域の将来のことを決めていってしまう」という思いがあったようです。
 「もやい直し」の第一歩は、地元の人みんなで、地元を白地図とカメラ、筆記用具を持って、歩いて、記録して、写真を撮って、調べてということから始まります。具体的に「水のゆくえ」調査と「あるもの探し」の事例を紹介します。
 水俣は「水」の「俣」と書く通り水の豊かな町です。「水のゆくえ」調査は、そんな水の豊かな町の“水”がどこから来てどこへ向かうのかを水源から海に注ぐまで調べるものです。地元学の「水のゆくえ」調査では、“水”の流れを調べることによって、水のある周辺の生き物、樹木や植物、そして動物、水の中の生き物、そこで暮らす人々の生活文化まで調べます。
 「あるもの探し」は、地元学の地域資源調査であり、名前の通り地元にあるものを探します。ポイントとしては、無い物ねだりをするのではなく、地域にあるもの、地域の生活文化を発見することに重きをおいています。
 水俣では、このように地域の人たちが共同して調べる地元学を実践していくことによって、同じ風土・文化を共有することができ、人と人、人と自然の関係をもう一度つくりあげています。住んでいる人々、ひとりひとりの取り組みが“環境先進地「水俣」”をつくりあげ、“まち”に変化を起こしているようです。

 最近、私の住んでいる周りを見回してもかぶと虫、クワガタ、カミキリなどを捕まえた雑木林を見かけることが少なくなりました。また、ゲンゴロウ、ミズスマシ、タガメなどのごく普通に見られた水辺の生き物たちも、果たして今もいるのだろうか。

 自然保護、リサイクルといった「環境教育」に熱心に取り組んでいることで全国的に知られています大阪市の中心部にある市立都島小学校では、自然環境を再現する「校内ビオトープ」を敷地内につくっています。コの字型の校舎の外側に沿って、ちょっとした雑木林やザリガニの池、枯れ草を敷き詰めたコオロギの小道などがつくられています。簡単に自然を観察できるようになっただけでなく、子供たちが関心を持つきっかけにもなっているようです。

 地元学、環境教育などすべて網羅したような“まちづくり学”なるものが、小学校の教科書(体験学習をふんだんに盛り込んだ)になって登場する日もそう遠くないかも知れません。やはり、“まちづくり”は“人づくり”と言われますように、子供のころから生活の中にしっかり根を張って、自然と慣れ親しんでいくことが心豊かな人間を育てていくためにも必要になってくることと思います。

By Nagura

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