起業家育成の取り組みについて考える

記:2006.5.14

 “起業”“起業家”“起業家育成”などという言葉が新聞、テレビなどで頻繁に見られるようになってきていますが、ひと頃と違って、その形態は多種多様になってきています。当方自身もいわゆる10年ほど前に10年間努めた会社を辞めて起業した身ですが、その頃は、ベンチャーという言葉そのものもまだあまり聞かれない状態でした。

 当方が起業して、数年後にベンチャービジネスという言葉が流行り、ベンチャーは日本語で冒険という意味ですが、その頃のベンチャーの捉え方は、新技術や高度な知識を軸に、創造的・革新的な経営を展開する意味合いが強かったです。わかりやすく言えば、インターネットやITを活用したITベンチャーが主流でもてはやされたと言えます。

 国の動きを少し紐解いてみますと、1992年2月に新事業創出促進法が施行され、わが国に蓄積された産業資源を活用しつつ、新たな事業の創出を促進するため、個人による創業の直接支援が始まりました。その一つの支援の手法として、ビジネス・インキュベータという新事業支援施設を設けました。インキュベータとは、日本語にしますと卵を抱くもの、保育器、孵化器という意味合いで、ベンチャービジネスを軌道に乗せるまでの施設・機器・資金などの援助を行う場としての言葉として使われています。

 今回のコラムでは、かつてのITベンチャー全盛期の頃とは違った多種多様になってきた現在の起業家支援や育成の取り組みを見ていきます。ざっと挙げますと、若者向けの学生たちの起業家支援・育成だけでなく、団塊世代向けの起業家支援・育成、女性の起業家支援・育成、子育て中の女性起業家支援・育成、地域の困った課題を解決する地域に根ざしたコミュニティビジネス(地域ビジネス)的な起業家支援・育成に向けてなど多彩な取り組みが見られます。また、国の支援だけでなく、民間企業、金融機関、大学、NPOなど連携した取り組みも進んでいます。

 まず、2007年問題としてよく取り上げられている団塊世代に向けての起業支援・育成を見ていきます。団塊の世代とは、終戦後の1945年から1947年の3年間に生まれた806万人をさします。“団塊の世代”という呼び名は、堺屋太一さんが1976年に発表したこの世代が主人公の近未来小説「団塊の世代」からつきました。第二次大戦後のベビーブームは、世界的な現象で、日本の団塊の世代と同様に、アメリカでも1946年から1964年の19年間に生まれた人をベビーブーマーと呼び、全人口の29%を占めています。

 2007年問題というキーワードの説明を忘れましたが、団塊の世代が60歳を迎える2007年から大量退職時代に入ります。そうなりますと、働く人や国の歳入が大幅に不足する恐れがあることや団塊の世代のベテラン技術者のノウハウが若い世代に受け継がれないという懸念もあり、団塊の世代の大量退職がもたらす一連の問題のことを“2007年問題”と呼ばれています。団塊の世代は、ちまたで「組織の中で競争することには慣れていますが、個人として地域に出てどう生きるのかということに苦手」という評価をよく聞きます。そのあたりを支援していく取り組みが見られます。

 団塊世代の知恵や力を地域での市民活動に生かしてもらおうと、各地でNPOをつなぐ初めての全国組織として、NPO法人「地域創造ネットワーク・ジャパン」が2006年5月22日に設立される運びとなっています。退職シニアの地域参加を応援する取り組みとして「起業講座」「ボランティア、NPOへの参加相談」「退職前の地域デビュー講座」など計画しています。団塊世代の企業などでの経験が、行政では対応しきれないサービスを地域で担う新たなコミュニティビジネス(地域ビジネス)の創造につなげたい狙いもあります。あと、多くの自治体で見られる取り組みとして、団塊世代に農業の基本的な知識や基礎技術を指導したり、農地の確保までしたりするなど農業の担い手としての動きも見られます。

 女性という切り口で起業を見ますと、ここ数年、自分のやりたいことを仕事にしながら働きたい、組織に縛られずに働きたいという起業・開業に踏み切る女性が増えています。1999年度に1,315件だった国民生活金融公庫の女性向け起業資金の融資件数は2005年度には5,500件を超えています。女性向け起業セミナーも盛況で、女性と仕事の未来館が2005年度に開いた初級の起業セミナーは3回とも定員を超える参加希望者があったそうです。

 国民金融公庫によると、女性の開業資金の平均は2005年度で約1,500万円ですが、500万円未満の開業も3割を占めています。起業・開業の際に大きな壁となる資金の調達については、国民金融公庫や中小企業金融公庫などの公的金融機関だけでなく、地方公共団体でも、起業する女性を対象にした融資制度を設けているところもあります。また、子育て中の女性起業家をNPO法人などが支援する動きも盛んになってきています。

 総務省の就業構造基本調査(2002年)によると、女性の起業希望者数は約56万人で、このうち子育て期間中にあたる30から40代が約半数を占めています。また、厚生労働省が2006年度から導入する支援事業は「女性向けの起業支援情報を集めた専用サイトの設立」「経験の浅い女性起業家に経営面の助言を与える全国約50人の先輩女性をメンター(助言者)としての紹介」「末っ子が12歳以下の母親に特化した助成金制度の創設」の3つの柱からなっています。子育て中の女性起業家の支援体制も整いつつあります。

 起業を目指す女性のアンケート調査結果(女性と仕事の未来館における2005年調査)をみますと、「年齢に関係なく働きたい」が約60%を占めています。また、子育て支援中の女性起業家からは「子どもといる時間を大切にしたい」という声も多く挙がっています。

 最後に、大学の起業家教育・支援の取り組みをみていきます。当方自身も大学の地域連携や学生たちの起業に関わってもおり、大学のビジネスプランコンテストで基調講演をしてきたこともあります。その時に感じたのは、起業を目指してる学生たちが思ったほど多くなかったことです。一般の学生を対象に話してきたので、今では、社会人学生も多くなってきており、社会人学生の起業意識は一般学生より高いようには思います。

 昨年(2005年)の段階で、大学発ベンチャーは1,000社を超えましたが、そのうち、大学院生・大学生が起業した割合は約1割です。純粋な大学院生を除いた大学生に限るともっと低い数値になります。まあ、この数値を多くみるか少なく見るかといった観点やライブドア事件でここ数年の起業ブームに冷や水を浴びせたという観点などありますが、大学側は、社会人や大学院生向けに開いてきた起業家養成講座の対象を大学生にも広げようとしています。景気も上向きつつあり、大学としても生き残りをかけた競争を生き抜くためのサービスの拡充など時代の流れとして、起業支援が進められており、起業を考えていらっしゃる方には良い時代と思います。

 立命館大学は、主に2年生を対象に起業家養成コースを設けたところ、応募が予想を上回り、当初予定の50から80人の定員を115人に拡大しています。慶応義塾大学は今春(2006年春)、起業関連で企業の寄付講座を二つ追加しています。東京大学は、昨年(2005年)開いた「アントレプレナー(起業家)道場」を今年(2006年)も実施します。受講生による事業計画コンテストの成績上位者が起業を準備する動きが相次いでおり、一定の成果が上がっており継続する動きです。高知大学では、学生にベンチャー企業での長期インターンシップの経験を積ませる講座を設置しています。

 大学と金融機関との連携も進んでおり、池田銀行は同志社大学と連携協定を締結し、同大学発の企業や起業家の事業支援に特化した専用ファンド「池銀キャピタル夢仕込ファンドD・I投資事業組合」を創設しています。ファンド規模は1億円で、1件あたり500万円、20件を想定しています。また、同志社大学の京田辺キャンパスに建設中の学内インキュベーション施設に入居を予定する起業家も支援対象に含めています。

 京田辺キャンパスのインキュベーション施設は、2006年末オープン予定で、同志社大学を中心とする地域資源を活用した新産業の創出、産業の発展を目指して、独立行政法人中小企業基盤整備機構(経済産業省主管)が整備を進めているものです。平成14年度から整備が進められており、平成16年度までに立命館大学、大阪大学、九州大学、東京大学、京都大学、名古屋大学・名古屋工業大学・名古屋市立大学連携、熊本大学、慶應義塾大学が選ばれ施設が既に出来ており、平成17年度認定分の同志社大学はじめ、金沢大学・北陸先端科学技術大学院大学・金沢工業大学・石川県立大学連携、東京工業大学の整備が進んでいます。

 これまで起業支援の取り組みなどを見てきましたが、国だけでなく、金融機関、NPOなどが起業を支援する動きが活発になってきており、先ほども述べましたが、起業する方にとっては良い時代と思います。しかし、いくら周りの支援体制が整ってきたとは言っても、起業する本人の真剣な姿勢と客観的な視点にたった計画的な事業展開などが必要です。中には、理念や思いばかりが先行して、事業計画が詰めてなかったりする場合も見られ、当方自身も起業経験者としてサポートに関わっていることもあり、安易に起業を思い込んでいる人をどうなだめるかというのも一つの役割となってきています。しっかりマーケティングして事業計画を立てている方を支援するより、感情的に思いが先行して場合の方の対応の方が難しいです。

 自分の思いや信念を貫く姿勢は起業するものにとっては、非常に重要ですが、その上で、起業するにあたっては、自分自身を客観的に冷静的にみつめるバランス感覚や自分の思いとは仮に違っても、聞く耳をもつというという柔軟性も必要と思います。起業相談のアンケート調査結果(東京都中小企業振興公社2004年度調査)をみると、「金融(融資・助成金等)」が44.2%で最も多く、次いで「経営一般」が37.4%、「施策、機関情報」が25.4%、「会社設立その他」が14.1%と続いています。一方、以外と少なかったのが、「経営計画」が10.7%、「ビジネスプラン関係その他」が6.8%、「販路開拓・仕事の確保」が7.1%、「販売・販売促進」が3.0%などです。

 私自身、会社を立ち上げて、最初の仕事をとることが一番たいへんでした。その時に、会社は誰でも作れて、簡単に社長になれるが、仕事をとり、継続的の事業を行っていくことのたいへんさをあらためて思い知りました。当たり前のことですが、起業する時は、開業するまでの思いを夢描いてしまい、会社をつくった後の販路や販売までしっかり煮詰めていなかったことが思い知っただけに、上記のアンケート結果をみると、事業計画をしっかりつくった上で、あとは資金面を相談しているのであればいいですが、会社設立後の事業展開、仕事の確保、販促活動などがしっかり描き切れているのかどうか心配な面も感じられます。

 景気が上向いてきたとはいっても、ビジネスの世界はいつでも競争が激しいだけに、厳しい指摘もしてきましたが、起業を考えていらっしゃる方には、良い時代でチャンスの時を迎えていますので、しっかり自分の思いを描いて、市場のマーケット調査をして、事業計画を立て、夢に向かって挑んでいかれることをお祈り申し上げます。

 今回のコラムでは、起業家育成・支援の取り組みについて見てきましたが、今月(2006年5月1日)新会社法が施行されました。最低資本金規制が廃止され、資本金の額を気にせずに自由に会社の設立が可能となりました。開業資金や軌道に乗るまでの運転資金が必要なことは言うまでもありませんが、最低資本金規制が廃止されたことで、起業する方にとっては追い風が吹いていると言えます。新会社法は、最低資本金額だけでなく、有限会社が廃止されたり、LLP(合同会社)という新たな会社類型なども創設されました。次回のコラムでは、私自身も現在の有限会社から新会社法の施行を機に、株式会社に移行しようと考えている点含め、新会社法について考察します。お楽しみに!!

By Nagura

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