2006年4月の商標法の改正を控え、
“地域ブランド”について考察する

記:2006.3.5

 来月(2006年(平成18年)4月)、商標法の一部改正により、「地域団体商標制度」が導入されます。一言で言えば、地域ブランドセミナー風景「三ヶ日みかん」などの地域の名称と商品またはサービスの名称等からなる商標(地名入り商標)の取得が可能になります。最近、地域ブランドという言葉がよく聞かれるようになってきたと感じていらっしゃる方も多いことと思いますが、まさに、今回の商標法の改正の狙いは、地域の事業者が統一したブランドを使って商品やサービスを提供する「地域ブランド」の動きを促進するためです。

 現行(2006年4月の改正前)の商標法の下では、地域ブランド保護に関して、地域名と商品名からなる商標は、原則として商標登録を受けることができません。ただし、例外として、全国的な知名度を獲得したことにより、特定の事業者の商品であることを識別できる場合に商標登録できます。また、よく使われている図形等と組み合わせた場合は商標登録できます。現在、例外的に文字のみで登録されているのはほんの一握りです。少し挙げますと、「西陣織」「夕張メロン」「前沢牛」「佐賀牛」「笹野彫」「信州味噌」「三輪素麺」「佐賀海苔」「宇都宮餃子」「富士宮やきそば」「中房温泉」などです。

 比較的有名と思われる冒頭でも例に挙げました「三ヶ日みかん」はじめ、「関あじ」「関さば」「草加せんべい」「宇治茶」「小田原蒲鉾」「信州そば」「大島紬」「有田焼」などは、文字のみで商標登録できずに、図形・デザイン化された文字または他の名称と組み合わせて使用することで商標登録されています。ですから、今回の商標の改正により、地域名と商品名からなる「三ヶ日みかん」「関あじ」「関さば」などは、文字だけでの商標登録が可能となります。改正されても何でもかんでも登録できるという訳ではなく、登録要件はありますので、その要件の詳細は後ほど記載します。

 まず、今回の改正における話に入る前に商標とは何かというところから紐解いていきます。商標が、商いの歴史に登場したのは、今から2000年以上前の古代ローマ時代のころです。商品の流通が国内外へと広がっていくのにともない、諸国間での取り引きの際に、出所を証明するものとして商標が利用されていたようです。10世紀頃の中世ヨーロッパでは、線上の図形やモノグラム(氏名の頭文字等を2文字以上組み合わせて図案化したもの)等で構成された「商人標」が普及していました。「商人標」は、主に船の難破や海賊など災難にあった際に、その商品が元は誰のものなのかを示すためのマークでした。

 そして14世紀末には、「生産標」なるものが登場し、西欧諸国全域に普及していきました。「生産標」は、ギルド(同業者組合)によって、手工業者が粗悪品を世に出さないように使うことを強制されていたマークです。品質保持の意味がありました。近代的な商標の役割が確立したのは、ここ1世紀半くらいのことで、18世紀後半の産業革命を経て、近代的な資本主義経済が成立してからで、1857年のフランス商標法を手はじめに各国で商標を財産権として保護するように制度化され、現在の「商標法」へとつながっています。

 日本に目を移しますと、日本における商標の発祥は、大宝律令(701年)により、刀剣の生産者の名前を刻印することが義務づけられたことによるものです。商標は、鎌倉・室町時代には「座(商人の同業組合)」が形成されることで、屋号、暖簾(のれん)、家紋(かもん)などの形で発達し、江戸時代にはその多様化が進んでいきます。登録制度による保護は、明治17年(1884年)6月7日に制定された「商標条例」がはじまりです。その後、産業が進歩するのに合わせて数々の改訂を重ね、現在の商標法に至っており、今回(2006年4月)、地域ブランドの促進を図るために、一部改正されます。

 ちなみに日本の商標登録第1号は、明治18年6月2日に京都府の売薬業者・平井祐喜による商標です。板前さんが誤って指を切ってしまった絵で、平井の軟膏を塗ればケガも治るという効能を上手にアピールしています。

 商標の歴史はこのぐらいにしまして、話を2006年4月に改正され、地域の名称と商品またはサービスの名称等からなる商標(地名入り商標)の取得が可能になりますが、その際の要件を詳しくみていきます。現行法(2006年4月改正前)では、「三ヶ日みかん」は、先ほど申し上げたように、文字のみでは商標登録ができていません。改正後に「三ヶ日みかん」という文字のみで登録する際の要件は、まず取得する団体が「法人格があること」「事業協同組合等、特別法により設立された組合であること」「設立準拠法において構成員資格者の加入の自由が保障されていること」である必要があります。特別法により設立された組合の具体例として、農業協同組合、漁業協同組合、森林組合、商店街振興組合、酒造組合などがあります。

 上記の出願者が主体的要件を満たした上で、「構成員に使用させる商標であること」「商標が地域名+商品(役務)名等であること」「地域名が商品(役務)と密接な関係があること」「商標が周知になっていること」「通常の登録要件を備えていること」の要件が必要となります。この中で、一番判断が難しいというか、最終段階で登録できるかどうかは「周知」にあると言えます。周知とは、当該商品が出願者またはその構成員の業務に係る商品(役務)に表示するものとして需要者の間で広く認識されていることという意味合いです。

 周知の要件として、隣接都道府県に及ぶ程度の浸透が必要としています。判断手法・立証方法として、「商標の使用期間」「商標の使用地域」「商品(役務)の生産・販売等の数量」「営業地域」「広告宣伝の方法・回収・内容」「一般紙・業界紙における記事の掲載回数・内容等」「特産品の認定、公的機関の証明等」を挙げています。また、「通常の登録要件を備えていること」というところでは、既に商品(役務)が普通名称等になっているものは登録できません。「さつまいも」「奈良漬け」「伊勢エビ」などの商品名は、普通名称として認識されて、商標登録することはできません。

 一番上の画像は、2006年1月19日に愛知県岡崎市で開催された「地域ブランドセミナーin愛知(主催:日本弁理士会、愛知県)」に参加してきた模様を写したものです。セミナーでは、上記で説明しました商標法の改正のポイントそして、地域ブランドの成功事例として、冒頭でも挙げましたように、文字のみで商標登録されている「富士宮やきそば」の紹介がされました。画像から、「富士宮やきそば」ののぼりと、お話されてる富士宮やきそば学会会長の渡辺英彦さんがご覧いただけます。

 最後に、「富士宮やきそば」の成功事例を紹介します。先日(2006年2月18日、19日)、日常の食べ物で地域おこしを担う団体が日本中から集まる「B級ご当地グルメの祭典 B-1グランプリ(青森県八戸市で開催)」が開催され、初代グランプリに「富士宮やきそば」が選ばれたこともありご存知の方も多いのではないでしょうか。B-1グランプリに選ばれる前から、「富士宮やきそば」は、全国区的に有名になり、東京から日帰り観光バスコースにも入っているほどです。

 それでは、「富士宮やきそば」が全国区的に有名になった背景、携わった方の努力を見ていきます。静岡県富士宮市は、富士山の西南麓に広がる人口約12万5千人の町です。そもそものきっかけは、多くの地方都市の例に漏れず、富士宮市も中心市街地の空洞化が進み、市と商工会議所が1999年に中心市街地の活性化に向けて、市民に呼び掛けてワークショップ(出席者全員参加型の意見交換・情報交換の場)を開いたことです。約60名の市民参加のもとワークショップが開催されましたが、具体案を見い出すには至りませんでした。そのため、一部の参加者(13名)がその後も会合を重ね、ある日の会合で「富士宮の焼きそばは他と違う」という発言から他のメンバーも同調して盛り上がり、活動の発端となりました。

 富士宮の焼きそばに使われる「蒸し麺」は、通常蒸した後に、湯通しするのに対し、湯通しせずに強制冷却し、その過程において油をコーティングするという手法で作られています。そのため、水分の含有量が低いためコシが強く硬い麺となります。まず、2000年11月に「富士宮やきそば学会」をつくり、メンバーを「やきそばG麺」と名乗ったことから話題となり、テレビや新聞、雑誌などがこぞって取り上げました。その後、「やきそばG麺」たちは、数カ月にわたり調査活動を展開し、2001年4月に「富士宮やきそばマップ」を完成させ、掲載店にはオレンジ色ののぼりを立てて「食べ歩き」のできる基盤を整えました。今では、独特のコシのある麺を出す「富士宮やきそば」のお店は市内に150店以上あります。

 富士宮やきそばがここまで有名になったのは、これでもかこれでもかという話題性の提供です。“この麺にこのビール”とビール会社にポスターの製作の依頼や“麺免皆伝”“やきそばの道”と謳って、日本道路公団とパンフレットも作りました。それもなんと、すべて相手が費用を持ち、ただです。“麺免”は、お分かりになると思いますが、“免許”にかけています。このパンフレットで、東名から通じる西富士道路の通行量が月に約12,000台(2%アップ)増えて、公団にとって費用対効果が高い事業となったそうです。それだけ、富士宮やきそばのブランドがあるということです。

 その他、やきそばでまちおこしをしている秋田県横手市と群馬県太田市と富士宮市で、「三者麺談」「三国同麺協定」を結びました。また、北九州市の小倉は焼きうどんが有名で、富士宮のやきそばと小倉の焼きうどんの対決イベントとして「天下分け麺のたたかい」をしました。ここまで、読まれた方は、お気付きと思いますが、いわゆる“おやじギャグ”の連発が富士宮やきそばをメジャーにしたような感じです。

 市民たちが始めた楽しみながらのこの“おやじギャグ”による波及効果がすごいです。静岡県富士行政センター発表では、2001年から本格的な活動が開始され、2002年にかけて、製麺業者の売り上げが2億6300万円の増加、小売店の売り上げや関連素材の売り上げを含めると1年間でおよそ12億円の経済波及効果があったとしています。2004年までの3年間で、少なくとも30億〜40億円の経済波及効果があり、2001年から2002年にかけて、富士宮市への入り込み客数も約100万人増えています。そのような成果により、商標法の改正前の2004年9月に「富士宮やきそば」は、通常認められない地名と単なる商品名で、例外として認められました。13人の市民の集まりから始まった“市民パワー”が、ここまで地域を活気づけたことには感服いたします。

 あと、ユニークな話題として、2006年3月4日に茨城県水戸市で第6回納豆早食い世界大会が行われました。納豆とご飯をこぼしたら失格です。からしやたれを使うのは自由です。第5回大会では、オーストラリア人の胸ポケットからラー油が出てきたそうです。開催場所の千波(せんば)公園には、水戸黄門像もあり、当日は、納豆コロッケ、納豆ラーメン、納豆汁などの屋台も並んでいたようです。また、優勝者には、お米や水戸納豆、電化製品などが贈呈されたようです。

 先ほどのB-1グランプリは、次回(第2回)の開催地は、「富士宮やきそば」の静岡県富士宮市に決まりました。ちなみに、今回のグランプリで「富士宮やきそば」以外で出展されたものは「北海道富良野市のカレー」「北海道室蘭市の焼き鳥」「青森県八戸市のせんべい汁」「秋田県横手市のやきそば」「福井県小浜市の焼きサバ」「鳥取県鳥取市の豆腐ちくわ」「福岡県北九州市の焼きうどん」「福岡県久留米市の焼き鳥」です。この中から、今回の商標法の一部改正で、「富士宮やきそば」に続いて、商標登録するものが出てくるかもしれません。商標法の改正を契機に、これから、ますます地域ブランドづくりの重要性がクローズアップしてきそうです。

By Nagura

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