“ものづくり”&“まちづくり”の観点から
大学と地域連携を模索する

記:2005.6.1

 大学との連携という言葉を耳にすると、一昔前までは敷居が高いというイメージをお持ちの方が多かったのではないでしょうか。今大学と地域連携では、大学と大企業、大学と行政などの連携だけでなく、市民レベルの地域連携まで幅広く行われつつあります。外部に広く開かれた大学が多くなってきています。今回のコラムでは大学と企業の共同開発などの“ものづくり”という観点と地域政策的な大学と地域が連携した地域振興的な“まちづくり”の両面から様々な事例を通して考えていきたいと思っております。

 連携というからには、互いのニーズが噛み合って成り立っていくのが一般的です。例えば、大学との連携において企業は、大学の研究成果などを取り込んで自社の製品に反映させたいとか、地域においては、中心市街地の活性化策を大学の専門家に立案してもらいたいなど大学の“知”を期待していることが想定されます。

 しかしここに来て、大学側からの地域への積極的な働きかけがみられるようになってきました。その背景にもつながる日本の大学のおかれた現状をまず見ていきます。国際経営開発研究所が発表した2002年の「国際競争力年鑑」で、日本の大学教育は最下位の49位でした。そのような状況の中、2004年4月に、政府の一部門だった国立大学が自立度の高い法人に衣替えしました。国立大学の法人化の狙いは、自主性を重んじることで教育や研究に活気を取り戻し、大学の個性を輝やかすことにあります。日本の大学教育の最下位という評価を受けてというわけではありませんが、法人化に伴って各大学がまとめた中期目標や中期計画では、教育の重視を挙げるところが多かったです。

 国立大学の法人化に伴い、私立大学との競争も激化しつつあり、なかでも一番の懸案となっているのが、大学受験した人が全員入学できる「大学全員入学」時代の到来です。少子化で大学・短大への進学希望者は2007年度に約69万9千人まで減り、全校の合格者数(定員数)の総計と同数となって、数字のうえでは志願者全員が入学できる「全入時代」に突入することが予測されています。文部科学相の諮問機関・中央教育審議会が試算したもので、進学率の頭打ちにより当初予想より2年早まり2007年にも到来と予測しています。また、2003年度の私立大学のデータをみると、4年制大学で28.2%、短大で45.5%の学校が定員割れを起こしています。定員割れに拍車がかかっており、生き残りにかけて待ったなしの状態で、まさに大学は淘汰の時代を迎えています。

 大学を取り巻く情勢が厳しい中、各大学が生き残りをかけて様々な取り組みが行われるようになってきています。ユニークな教育や研究を行ったり、産業や地域との連携を図ったりするなど様々な取り組みが見られますが、今回のコラムでは後者の学外における産業や地域との連携に関して、“まちづくり”“ものづくり”の観点から見ていきます。産業や地域との連携というのは、今に始まったわけではありませんが、競争が厳しくなって、地域への貢献とともに、地元重視の取り組みで学生獲得につなげたい思惑もあります。

 “ものづくり”という技術的な観点では、大学ベンチャーや大学の特許の企業活用などの取り組みが挙げられます。経済産業省の調査によると、大学発ベンチャーが2005年3月末で1099社にのぼっています。経済産業省が目標とした1000社の起業を達成したことになります。経済産業省の大学発ベンチャー1000社計画は、ナノテクやバイオ分野など大学で生まれた技術を用いてベンチャーを起こし、それを産業の再生につなげた米国シリコンバレーモデルの再現を狙ったものです。数字の上では、1000社という目標をクリアしていますが、内容は米国と比較するには程遠いという声が聞かれます。日本の場合、ビジネスモデルが脆弱で、特にマーケティングが弱いと指摘されています。「“いい技術であり、いい製品になりそうだ”のレベルで、その先の販売戦略がない」と大学の教授、助教授陣たちへ営業の重要性を説いています。大学の先生方のすべてがそうではありませんが、先生と呼ばれて相手から頭を下げられていた世界から逆に自ら頭を下げる世界に出ていって営業をやらなければならないという環境変化への対応の難しさも指摘しています。

 このような状況のなか、大学ベンチャーや大学の保有する特許を取り巻く連携・提携が行われつつあります。三菱商事と東京工業大学は、大学発ベンチャーの育成事業で提携しています。大学が総合商社と広範囲で手を組む初めての取り組みです。東京工業大学がエネルギーなどの先端技術分野で三菱商事から事業化提案や資金支援を受け、ベンチャーを設立します。全国の大学発ベンチャーがマーケティング力や資金不足などで伸び悩んでいる一つの解決策と言えます。

 また、三井住友銀行が大阪大学と東京農工大学の持つ特許技術を銀行の取引先企業に紹介する大手銀行初のサービスを始めています。単なる技術移転の仲介にとどまらず、特許を使った実際の事業計画までを銀行側でつくり、技術の「市場価値」を高めてから企業に渡すのが特徴です。

 私自身は、“ものづくり”の世界から“まちづくり”の世界に飛び込みましたが、両者には合い通じるものがあると思っています。“ものづくり”の経験が“まちづくり”にも生かされていると思います。“ものづくり”と“まちづくり”が融合した取り組みと言える施設として、熊本大学が、ものづくり創造融合工学教育事業の一環として「まちなか工房」を熊本市中心商店街に開設しています。市民や行政、企業などと交流しながら、大学内の座学で養った知識を実践するのが狙いです。当面は、熊本市内の中心市街地活性化、公共空間整備などのプロジェクトに取り組んでいます。また工房主催の「まちづくり学習会」を定期的に開いています。大学側は「工学は世の中に必要なモノを形にするのが役目、工房で世の中を感じ、価値ある新しいモノを創造したい」と意気込んでいます。

 大学が目指す大学像として、「研究」「教育」そして「社会貢献」を基本目標に掲げているところが多いです。その基本目標に向かって、教職員、学生を含めた関係者の意識改革を図っています。“まちづくり”という観点で地域貢献に積極的に取り組んでいる大学が増えており、なかでも私立大学が目立っています。先程も述べましたように、少子化や国立大学の法人化で大学間競争が激しくなっていることが拍車をかけており、“地元に役立つ大学”を目指しています。地元のファンを増やし、地域からの学生獲得につなげたいという狙いも背景にあります。

 私立大学のまちづくり系の取り組みを少し紹介します。早稲田大学は、2002年末に東京都墨田区と地域振興で協力することで合意して取り組んでいます。この合意の立役者は、国土交通省出身の友成教授で「大学の最大の資源である学生を地域振興に活用したい」という思いから始まっています。学生たちが墨田区で調査して感じたことを区役所の職員にぶつけて意見交換しています。また、学生から刺激を受け、自治体経営を早稲田大学の大学院で学ぶ職員も出始めています。

 関西学院大学は、2004年10月に兵庫県宝塚市に地域連携センターを立ち上げて、遊園地やホテル閉鎖で元気を失いかけている宝塚市の地域振興に取り組んでいます。具体的には「街づくりの支援」「高度福祉の支援」「新産業創成の支援」「宝塚歌劇研究/宝塚地域研究」の4つのプロジェクトを推進しています。また、平成16年度の文部科学省の現代GP(現代的教育ニーズ取組支援プログラム)にも、テーマ「学生による劇場空間・宝塚の都市再生」で採択されています。現代GP(現代的教育ニーズ取組支援プログラム)とは、文部科学省施策で、各種審議会から提言等、社会的要請の強い政策課題に対応したテーマ設定を行い、各大学等から応募された取組の中から、特に優れた教育プロジェクト(取組)を選定し、財政支援を行うことで、高等教育の更なる活性化が促進されることを目的とするものです。ちなみに、現代GPのGPは、Good Practiceのことで、優れた実習という意味合いです。

 今回紹介した以外で、まだまだ学生はじめ大学と自治体や商店街との連携は、ざまざまなところで進んでいます。これまで私が行った先の視察レポートとしては、まだまだ少ないですが、検索項目「学生・大学における連携の取り組み事例(商店街・行政などとの連携)」を設けています。クリックして頂きご覧頂けましたら幸いです。学生・大学とまちづくりという観点では、これからも数多く紹介していきたいと思っております。

 今、大学は、ブランド戦略をとったり、地域密着型の戦略をとったり、様々な試みを行っています。一昔前は、大学というと敷居が高いというイメージが先行しがちで、商店街の商店主や地域住民の皆さんには近寄り難い存在だったかも知れません。しかし、時代は変わって、大学の方から地元(地域)に呼び掛けています。今こそ、商店街、地域住民側からも積極的に大学側に働きかけて、互いの交流が生まれ、そして、地域が元気になり、さらに大学も元気になって、互いに良い関係が築いていけるようになっていけばと思っております。私自身はその橋渡しをしたいと思っております。

By Nagura

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