安城の“食”と“農”を考えるシンポジウムに参加して

記:2004.6.1

 愛知県安城市で開催されました「安城の“食”と“農”を考えるシンポジウム」(2004年3月13日開催)に参加してきました。パネルディスカッションシンポジウムは、2部構成で、東京農業大学・学長の進士五十八(しんじいそや)氏の基調講演「21世紀は農の時代」の後に、名古屋大学・農学国際教育協力研究センター長の竹谷裕之氏のコーディネーターでパネルディスカッション「安城の“食”と“農”を考える」が行われました。

 安城は、かつて“日本デンマーク”と呼ばれ、1970年代頃までは小学校の社会科の教科書に載るほど、農業の先進地として有名でした。日本デンマークと呼ばれた由縁等は、視察レポート「三河地方の“農業”“工業”を支えている明治用水を訪ねて」で紹介しておりますので、併せてお読み頂けましたらと思います。大正時代末期から昭和時代初期にかけて、安城を中心とした旧碧海郡(現在の安城市、刈谷市、知立市、高浜市、碧南市にあたる)が日本デンマークと呼ばれました。その頃に比べれば、開発が進み人口が増えましたが、それでも豊かな田園が今でも広がっています。その原風景とも言える田園の大切さ、必要性を考える意味合いを含め、安城市農業基本条例策定に向けて、今回シンポジウムが開催されました。

 上から2番目の画像は、東京農業大学・学長の進士五十八氏の基調講演「21世紀は農の時代」の模様を写したものです。まず、東京農業大学の食と農に関する話題を紹介していきます。進士学長は、様々な“農”を取り巻く切り口からお話をされ、まず初めに「すべてのまちは農村が基本である」ということをおっしゃられました。進士学長は、農大の学長であり農の専門家であるとともに、都市計画学会の会長もされており、まちづくりにおける造園学の専門家でもあります。農業と都市進士先生の基調講演計画の両方に詳しく、全体を通して、都市と農村の両方のバランスが必要ということを強調されていました。進士学長は、昨年の春に「21世紀は農の時代」という本を出版されており、この本を読まれますと、今回、話された内容を垣間見ることができます。ご興味のございます方は、一度お読みになられることをお勧めいたします。

 東京農業大学は、地域に向けて、食と農を発信しており、2004年4月6日に「食と農」の博物館を東京都世田谷区に開きました。“開かれた大学に”がモットーの東京農業大学だけに、「食と農」の博物館を大学の敷地内ではなく、市民が来やすいように、近くの公園に設けました。農大が113年の歴史の中で積み重ねた数多くの「食」と「農」の資料や情報を広く一般に公開する情報発信拠点としての意味合いもあります。中でも必見なのが、醸造学科を持つ大学らしく酒にまつわるコーナーが充実しています。日本各地の蔵元から集められた約300本の日本酒の瓶が壁一面に並ぶ姿は色鮮やかです。

 また、興味深い話として、東京農業大学の造園科学科には、各学年200名の学生が学んでいますが、そのうち4割が女子学生だそうです。他大学の造園系の学科でも同傾向のようです。若い女性の志向するものが時代のトレンドと言われますが、そうすると“造園”はトレンドと言えます。30年前には女子学生の占める割合は1割ほどだったそうです。東京農業大学の女子学生の傾向は、問題意識が高く、とにかく優秀であり、各学年の特待生、卒業式の総代、成績会場の観客の様子優秀者、卒業論文の学長賞などほとんどすべて女子学生が選ばれているそうです。マスターコース、ドクターコースにも女子学生があふれており、中国や台湾、韓国から来る留学生の半数も女性が占めているようです。造園は、まちづくりや公園づくりなど活躍の分野は広く、より生活者の視点でものが考えられる女性造園家の活躍が期待されていると言えます。

 あと農大の特徴として、海外農業実習があります。メキシコ、中国、米国など世界各地の大学の農場に1カ月から1年間滞在し、実習、見学を体験します。毎年、約200人の学生が旅立っています。海外実習を経験した学生たちは、実習先で海外の農業の現実に触れ、目的意識の高い現地の学生と交流する中で刺激を受け、帰国して自ら学ぶようになるそうです。また、将来の食、農業、環境のあり方について、東京農業大学と世界各地の姉妹校の学生が研究成果を発表する「世界学生サミット」が2001年から毎年、農大で開催されています。発表は原則英語で、企画、運営も学生が担っています。

 基調講演の後に、地元の消費者代表、商業者代表、生産者代表はじめ、JA、明治用水、農林高校など関係機関の代表者を交え、パネルディスカッションが行われました。一番上の画像は、パネルディスカッションの模様を写したものです。また、上から3番目の画像は、会場の参加者の様子を写したものです。

 基調講演で、日本のみならず、世界的というか地球的な視点から“食と農”のお話を頂き、そして、パネルディスカッションでは、基調講演を受けて、それでは、地元“安城”の食と農はどうあるべきかが、地元の方々含め話し合われました。挙がった意見をざっと紹介していきます。農については、「素晴らしい田園風景を後世に残したい」「明治用水は緑(農業)の源」「市街地の農地が減って、町に緑が減ってきている」「田園と居住が近く季節が感じられる」「農業観光としてルートを整備し、日本デンマークを復活させる」など挙がりました。

 食(食べ物)については、「安城の伝統野菜、郷土食を掘り起こす」「農業体験、料理づくりなど正しい食生活を子供たちに“食育”という観点で進めていく」「学校給食などを通して、地産地消を推進していく」「季節感のある食、旬なものを食べて食文化を見直す」「安城の特産品を生かし、名物をつくる」「安城の食材をつかった地産地消レストランを増やす」など挙がりました。また、連携・交流という観点では、「商業者と生産者が共同で、中心市街地等の空き店舗を利用して地場産のお店を開く」「レジャー農園(市民農園)を通して、消費者と生産者の交流(作り方指導など)を図る」「明治用水上部の緑道を利用して、ウォーキングなどを通して、安城の農業、水の大切さを知ってもらう」「安城農林高校の生徒たちが、子供たちに農業体験を通して交流学習する」など挙がりました。

 農水省が先日、2003年度の国民一人あたりのコメ年間消費量を発表しました。1965年度の調査開始以来最低で1俵(60キロ)を割っています。前年度比0.9%減で、1カ月あたり4.96キロで、年換算では59.5キロとなっています。調査開始の1965年には、年間で2俵近い112.2キロあり、半減しています。その背景には、女性の社会進出などに伴い、炊飯に比べて手間のかからないパン食やめん類を食べる世帯が増えたことなど挙げられます。また、コメがどのように、できるのかわからない子供たちも出てきています。

 俳優の永島敏行さんが、10年ほど前から秋田と千葉の田んぼを借りて、手作業の米づくりを子供たちや地域の人たちと一緒に行っています。素晴らしい取り組みと思います。永島さんは、「子供たちには、いつもおにぎりがコンビニにあるのが当たり前に思って欲しくない」とおっしゃっています。また、3年ほど前から、生産者と消費者が直接言葉を交わし、食文化の大切さを見直す場を東京につくる構想を温めており、第一弾として、顔なじみの秋田や千葉の農家らも参加し、米や野菜などを販売し、郷土料理をふるまう店を銀座に開くそうです。

 安城でも、まさに手作業の米づくりが、先日(2004年5月23日)、各国の大使の御家族と子供達、地域の方で行われました。「2004地域環境米米フォーラムin三河安城」という催しで、先日が田植えフェスティバルで、10月には、また同じメンバーで稲刈りフェスティバルが行われます。俳優の永島さんの取り組みといい、今回の安城でのシンポジウムはじめ、米米フォーラムをみても、先人の残してくれた稲作文化の大切さを見直すべき時を迎えているように思います。稲作文化、食文化の見直しとともに、田園が育んできた美しい環境というものにも目を向ける必要があります。

 農業には、安心・安全な食料の供給だけでなく、きれいな空気や水を生み出したり、田園風景など美しい景観の創出、ゆとり・やすらぎの場の提供、自然生態系の保全機能、都市と農村の交流の場などさまざまな役割があります。皆さんも、今一度、お近くにある田園、田畑を眺めて、考えてみられてはいかがでしょうか。

By Nagura

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