名古屋市東山動物園の飼育係を訪ねて
“動物と人間の関わり”について考察する

記:2003.7.1

 久しぶりに名古屋市東山動物園に行ってきました。皆さんは最近、動物園に行かれてますでしょうか。今回は、名古屋市東山動物園の飼育名古屋市東山動物園イメージ係の方に、動物園の裏側から飼育係としての仕事上のご苦労や動物とのふれあいなどを伺ってきましたので併せて紹介していきます。

 東山動物園は、名古屋駅から17分ほど地下鉄(東山線)に乗り「東山公園前」で下車すると、すぐ前が動物園の入り口です。東京の上野動物園も上野駅から近いですが、上野動物園よりもさらに駅から近く、最寄り駅からの動物園へのアプローチでは、日本全国的にみても非常に便利なところです。東海エリアの方でしたら、幼稚園や小学校の遠足などで一度は訪れていらっしゃることと思いますが、出張で名古屋に来られる忙しいビジネスマン、ビジネスウーマンの方も、ふらっと立ち寄ることも可能です。動物を見て、ほんのつかの間でも、癒されてはいかがでしょうか。

 東山動物園には、植物園も併設されており、正式名称は「東山動植物園」です。動物園には、約600種の動物が飼育されています。定番人気のゾウやキリン、ライオンをはじめ、愛らしいコアラ、中国で生息する珍獣・キンシコウなど見ごたえたっぷりです。キンシコウは孫悟空のモデルとして知られていますが、気品のある顔が印象的でした。イベントとして、キリンにおやつをあげよう、アフリカゾウにおやつをあげよう、アシカにエサのホッケをあげよう、爬虫類と友だちになろうなどさまざまな動物とのふれあい体験も行われていました。あと、東山動物園の特色として、ネコ科の種類は日本でも有数と言われ、リビヤヤマネコは国内でも希少な存在です。他にも、長さ15メートルの大水槽で泳ぐメダカを間近で観察できる「世界メダカ館」や爬虫類・両生類などを展示している「自然動物館」など存分に楽しめます。

 同じ敷地内にある植物園では、約5500種が栽培されており、四季折々の美しい花木を見ることができます。園内には、150種2000株を誇るハーブガーデン、サボテン、アナナスなどを見ることができる中南米産植物温室、ハイビスカスやブーゲンビリアが咲き乱れるサンギャラリーなどがあり、世界の植物が一度に鑑賞できます。なかでも、迫力ある世界最大級のサボテン「サガロ」は一見の価値があるようです。東山動植物園は、名古屋市東部の丘陵地に約60ヘクタールにも広がる都心のオアシスとも言うべき、緑が残っているエリアです。また、東山動植物園の周囲をめぐる全長6.2キロメートルの遊歩道「東山一万歩コース」(所要時間約1時間半)は、季節の花木、野鳥のさえずりなど自然に触れながら散策が楽しめます。さらに、隣接して地上134メートルの展望室をもつ東山スカイタワーでは、絶景が楽しめます。夜景も人気があります。

 今回、東山動物園では、爬虫類の飼育係をしている早川さんに、園内をご案内いただきました。飼育係の仕事をいろいろと伺いましたが、かなり重労働な世界です。早川さんは根っからの動物好きで、お父様もここ東山動物園で働かれていたそうで、小さい頃から東山動物園には何度となく来ており、その頃より動物に携わる仕事を目指されたということです。当日は、まず、一般の方の目に触れることのない、動物にとって命の綱であるえさを調達する飼料担当の部署を案内頂きました。東山動物園の600種におよぶ様々な動物のえさは、綿密な年間計画にもとづいて購入されています。穀類や固形飼料は貯蔵がきくので大量に購入できますが、新鮮さが大切な野菜や果物類はその都度業者から仕入れています。ちょうど見学している時も、野菜や果物類が運び込まれていました。また、年間を通してきらすことのできないコアラ用のユーカリは、近隣で栽培しています。飼料の年間計画や成分調べ、貯蔵飼料の品質管理など動物たちにとって命綱であるえさの調達の仕事のたいへんさが垣間見られました。

 飼料がおかれた部屋には、大きなボードに各動物のえさの種類やえさを与える時間などが書かれているのですが、その中に“断食”という文字が見られました。この断食というのは、文字通りえさを与えない日のことです。これは、動物園で飼われている動物とは言え、本来、野生の動物のため、野生では、えさにありつけないこともあるので行っているとのことです。動物園で飼われているとは言え、本来、野生動物のもっている本能的な面は失わないようにしているようです。

 動物園では、各動物(分類)ごとに飼育係の人がそれぞれチームでついています。飼育係の実働時間は、平均すると一般のサラリーマンより長い傾向にあります。相手が生き物ですから、定時に出社して、定時に退社とはなかなかいかないようです。早起きの小鳥の担当であれば、かなり早く出るなどその習性に合わせなければならなく、動物が目覚めた直後のようすを観察することも大切とのことです。飼育係の仕事は、掃除やえさの用意、動物舎の修理(大掛かりのものは業者に頼みます)、冷暖房の調整、獣医師と一緒に担当動物の出産や病気やけがの治療に夜中までつきそったりとたいへんです。動物園に来場される方々に楽しんで見てもらい、ふれあってもらうためには様々な苦労があるようです。また、時には来園者の目になって、柵(ガラス)ごしに動物を見ることも行うそうで、お客さんの会話がヒントになることもあるそうです。

 今回、爬虫類担当の早川さんの仕事場である自然動物館(爬虫類・両生類・夜行性動物が約130種、約2000点)を裏側から見てきました。先ほど、飼育係の仕事のなかで、冷暖房の調整と記載しましたが、爬虫類は熱帯生まれの動物が多く、裏側は温室に入ったような暖かさでした。見る観客側の館内は、ガラスで仕切られていますので、通常の室温です。全長5メートル以上もあるような大きなニシキヘビ、カメレオン、イグアナ、大トカゲ、ワニなどたくさんいました。一般のお客さんが見ることができる展示中の動物以外に、控えの動物というか、入れ替え用の動物たちが裏側にはたくさんいました。現在、展示中の動物たちは、裏側の小さな覗き窓から見ることができるのですが、覗いてみていたら、ガラス越しで見ている一般のお客さんと目があってしまいました。また、裏側には爬虫類のえさとなるヒヨコやコオロギなども飼育されていました。実際に、全長5メートル以上もあるような大きなニシキヘビを出してきてもらい、触れましたが、ぬるぬるしたイメージとは違い、まさにへび皮の財布にようなしっかりした感触がありました。一緒に行った方は、くびにニシキヘビをマフラーのように巻いて記念撮影をしました。思ったよりもおとなしく、一緒に行ったメンバー皆が最初は恐る恐るでしたが、10分ほど触れていると違和感なく、ペットにしてもいいほど、かわいく見えてきて自然にふれあっていました。

 東山動物園の話題はこのあたりにしまして、次に、動物と人間の取り巻く関わりをみていきます。最近、テレビコマーシャルに登場したチワワが人気を集めるなど、ペットブームが続いています。愛犬家が増える背景には、都市部で飼育しやすい環境が整ってきたこともあります。ペットを飼えるマンションやペット同伴OKのレストランやカフェなども増えています。また、ハード面でも、都市部における公園が増加しています。東京都を例にとりますと、ここ20年で公園の総面積がほぼ2倍に増えています。大阪府でも1.5倍程度に広がっています。東京都立駒沢公園では、犬を放して遊べる「ドッグラン」施設が設けられました。東京都心の再開発ブームも犬を遊ばせる空間を増やしています。六本木ヒルズでは、敷地約11.6ヘクタールの約3割が公開空地となっており、屋外部分ではリードをつけて犬を散歩させることができます。東京都内で登録されている犬は、2002年3月時点で約33万6千頭で、ここ数年は年間1万頭ずつのペースで増えています。飼育環境がかつてに比べ良くなっているのは確かですが、一方で、ふんの不始末やリードを外して遊ばせるなど愛犬家に対する苦情も増えており、愛犬家のマナーの向上も求められています。

 さらに、動物とのふれあいという視点で、動物との触れあいを通じて、高齢者の情緒を安定させたり、身体機能を回復させたりする「アニマルセラピー」が注目されています。ボランティアが動物を連れて高齢者施設を訪問して成果を上げているほか、一般のシニア世帯でも、動物とのスキンシップによる効用も指摘されています。動物とのふれあいが、生活に潤いと張りをもたせているようです。

 厚生労働省所管の社団法人日本動物病院福祉協会は、犬や猫とともにボランティアが特別養護老人ホームなど高齢者の医療施設を訪問する活動を1986年から続けています。動物をなでることで最高血圧が10%以上下がることが米国の大学の研究で報告されています。実際に、日本動物病院福祉協会の活動でも、「表情が乏しかった人が犬や猫との遊びを通じて明るくほほ笑むようになった」「末期がんの患者が犬とふれあうことで落ち着き始めた」などの効果が確認されています。無口だった人が動物とのふれあいがきっかけでボランティアと会話を交わすようになったなど、動物を通じて自分の世界が外に広がっていくのもアニマルセラピーの効果の一つです。

 今回のコラムでは、上記の人間と動物とのふれあいおよび飼育係の世界から動物園の裏側を見てきましたが、動物園の表舞台も変わろうとしています。少子化やレジャーの多様化で動物園が閉園に追い込まれたり、来園者が減少するなど動物園経営も苦しい状況となっており、変革の時期を迎えております。資金面では、民間資金導入に活路を見い出そうという動きがあります。民間と組んだ動物グッズなどのキャラクター収入や園内の看板設置などの広告収入などいろいろと知恵を絞っています。そして、観客に楽しく見せる工夫も進んでいます。まず動物たちが楽しくのびのび過ごせる施設を造ることによって、観客に動物本来の魅力を見てもらおうという動きです。動物本位の考えで施設を造ると、動物側にも余裕ができ、来場した人に自然の姿を見せることができるというものです。例えば、オリの奥行きを浅くすると観客と動物の距離は縮まりますが、動物は物陰に隠れてしまいます。しかし逆に奥行きが深いと、いつでも後ろに逃げられる安心感から観客の近くまで出てくるそうです。

 先ほど、アニマルセラピーの話題を出しましたが、犬や猫をボランティアが連れて施設に伺うとは逆に、高齢者のためのデイケアセンターからバスを仕立てて動物園に来園する例も増えているそうです。動物園側では、園内の車いすでの移動も可能なようにバリアフリー化やトイレの改装などハード面の整備も進められつつあります。

 今後、さらに、少子高齢化社会が進むことが予測されているなか、動物園の役割も多様化の時代を迎えており、変わりつつあります。皆様方もお近くの動物園に、愛くるしい動物たちを見に行かれてはいかがでしょうか。動物たちから癒されるとともに、変わりつつある動物園のあり方などにも考えを巡らせていただければと思います。また、なかなか飼育係の方と話す機会がないかも知れませんが、動物へえさを与えるイベントなどの際に気軽に飼育係の方に声をかけられたらと思います。きっと新たな発見があることと思います。今回紹介しました飼育係の早川さんはたいへん気さくな方でした。

 今回、名古屋市東山動物園では、早川様にご説明いただくとともに、ご案内いただきました。最後に、紙面(ホームページ・メールマガジン上)を借りまして、お礼申し上げます。ありがとうございました。

By Nagura

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