愛知県の矢作川流域における“森を再生する”
取り組みについて考察する

記:2003.6.1

 人の手が入らない森林の無惨な荒廃が各地で進んでいるなど、日本の森林は、今深刻な危機に直面してい森を再生する会イメージます。森林の荒廃は、森林に生息する多くの動植物の生態系にも大きな影響を与えています。日本の森林面積は、国土の面積の約70%(約2500万ヘクタール)を占めています。

 まず、我が国の森林・林業の状況をみていきます。日本の森林資源は、戦後、荒れ果てた国土を水害等から守るために、また、木材資源を確保するため、全国的に木が植えられ森林の再生が図られました。森林は、木材の供給をはじめとして、国土の保全、水源のかん養(かん養とは、水が自然にしみ込むように、少しずつ養い育てること)、土砂流出防止、土砂崩壊防止、生活環境の保全・形成、保健休養の場、さらには二酸化炭素の吸収、固定、貯留、酸素供給、大気浄化など多様な機能を持っています。このほか、文頭でも述べました野生鳥獣保護はじめ動植物の生態系を維持するための機能があります。このように森林には、市場価値でははかり知れないさまざまな機能が存在しています。

 現在の国内産の木材需要は、生産コストの増加にもかかわらず、木材価格は長期間低水準にあることや資源的制約などで、木材の生産量は減少しており、輸入材の依存度が高い状況が続いています。このような状況のなか、適正な森林管理が行き届かなくなっている現状があります。我が国は、高温多湿の気象条件下にあり、植物の成育には適していますが、ツルやササ類が繁殖しやすく、樹木の生育を阻害する要因の一つとなっています。このため、森林を維持・造成し、永続的に利用していくためには、森林の状況に応じ、下草刈り、ツル切り、除伐等の保育、間伐や適切な伐採の実施など適正な森林管理が不可欠となっています。

 森林の育成という視点では、戦争中、乱伐され、さらに人手がなくなり手入れができずに荒廃した森林の復旧を目的として、国土緑化運動が戦後間もなく開始されました。現在、植樹祭などによる緑化思想の普及啓発活動、緑の少年団などによる緑化活動を通して、国民が幅広く参加した各種の活動が展開されています。また、皆さんも募金されたことがあると思いますが“緑の羽根募金”の寄付金を利用して、一般市民参加の植樹活動、青少年の林業体験活動などが実施されています。このほか、近年、森林のもつ公益的機能に対する国民の関心の高まりを背景として、上流の森林整備に対する下流域からの費用負担、ボランティアによる労働力の提供などさまざまな手段による森林整備の取り組みが見られます。

 2003年5月29日に、岐阜県、三重県、宮城県、岩手県、和歌山県、鳥取県、高知県、福岡県の8県が連携して、「都市と地方の共感を深める“緑の雇用”推進県連合」が結成されました。雇用機会の創出や森林づくりの担い手確保などを目的に、都市住民を地方に受け入れて林業などに従事させる“緑の雇用”を全国に広げようと結成されました。緑の雇用事業は、和歌山県の木村知事らが2001年に提唱したもので、和歌山県などは、国の緊急雇用対策や「緑の雇用担い手育成対策」などの制度を使い、応募した都市住民らが伐採などの技術を習得できるよう研修を実施中です。和歌山県は、2002年度、県外から133人を受け入れ、うち103人が定住を希望しているそうです。

 また、2003年6月3日から、農薬使用に注意するなど環境に配慮しながら管理が行き届いた森林を第三者機関が証明する日本独自の認証制度がスタートします。林業関係者にとっては、新制度を契機に森林管理の健全化と林業の再生を目指すとともに、日本が責任ある森林経営をしていることを国際的にアピールすることも狙いです。認証制度は、6月に発足する非政府組織(NGO)の「緑の循環認証会議」(東京)が管理、運営にあたります。適切な管理が認証された森林から生産される木材、加工製品には「認証」のラベルやスタンプを付けて出荷します。認証済みの木材を広く市場に流通させ、良質な国内材のブランド力を強めるほか、利用によって消費者側は間接的に森林保全に協力することになります。

 前置きがかなり長くなりましたが、今回のコラムでは、愛知県の中央を流れる矢作川流域における“森を再生する会”の取り組みを紹介していきます。矢作川流域の環境への取り組みは、以前に視察レポート「愛知県中央を流れる矢作川の取り組み」上でも載せておりますので、併せてお読み頂けましたらと思います。“森を再生する会”は、荒れた山、手入れされていない山を購入し、または借り受け、または委託を受けて管理しながら昔ながらの生態系豊かな山に再生することを目的として、2003年4月に結成されました。

 “森を再生する会”の結成は、愛知県安城市の市民団体「安城まちづくり市民会議」での取り組みが発端となっています。安城まちづくり市民会議では、まちづくりネットワーク委員会、環境委員会、デンマークルネッサンス委員会、音楽のあるまちづくり委員会、未来のまちづくり委員会の5つの委員会から成っており、そのなかの環境委員会が数年来にわたって川の浄化、山の再生、食と農などから環境という視点で取り組みを進めていました。その環境委員会の地道な取り組みにおいて大きな変化となったのが、安城まちづくり市民会議が呼びかけで、昨年(2002年)8月に安城市で開催されました「三河湾浄化オール三河サミット」です。各新聞の三河地域版で大きく取り上げられましたので、愛知県三河地域の方は御存知の方もいらっしゃることと思います。三河湾浄化オール三河サミットには、安城市、西尾市、岡崎市、豊田市、下山村、足助町など矢作川流域の市町村から、150人を超える市民、行政、専門家など愛知県内で水に関する様々な取り組みを行っている方々が集まりました。

 三河湾浄化オール三河サミットでは、「排水の浄化だけでなく、山の保水力を高めるための植樹を行う必要がある」「豊かな海を再び取り戻したい」「三河湾では、ここ数十年、海産物の漁獲量が減っている。三河湾をきれいにするには、愛知県全体での活動が必要である」などの意見が挙がりました。この活動を三河湾の水がきれいになって、再び豊かな海の幸を取り戻すまで続けることを誓いあって、1年後に、愛知県下山村で第2回三河湾浄化オール三河サミットを開くということを決めて終わりました。このような流れを受けて、三河湾浄化に向けてまず源である森林に視点があてられ、約半年後の今年(2003年)4月に“森を再生する会”が結成されたわけです。ちなみに、私も“森を再生する会”の趣旨に賛同して会費と山の購入資金にあてる寄付金1万円を出しました。結成総会の時には、農林水産省・東海農政局の方が来賓で見えられるなど広く注目されているようでした。また、私は今年度(2003年度)、安城まちづくり市民会議では、まちづくりネットワーク委員会の副委員長も仰せつかっております。

 “森を再生する会”では、今後、定期的に植樹会や下草刈り会の開催など地道な活動を通して輪を広げていくほか、会の趣旨に賛同される方から寄付金を集め、山を購入して育てていこうという意気込みも持っています。山を購入することで、山を育てていくとともに、その山を活用して、子供たちなどが学ぶ生きた実践教育の場にもなっていきます。山の購入資金は、一人1万円拠出して買おうというものです。当面は200人目標で、1万人への夢を掲げています。すでに、どのような山を買って、どのように整備しようということも決まっています。雑木の山を優先的に買い、水源の森として育てようというもので、針葉樹森は順次、自分たちの手で、広葉樹を植林し、植生を生かした生態系豊かな森に切り替えていこうというものです。減少しつつある日本の昔ながらの雑木林的な広葉樹の森を再生しようというものです。スギ、ヒノキ、エゾマツ、カラマツ、アカマツなどの背の高い針葉樹に比べ、広葉樹は、枝葉が大きく張ったのが特徴です。広葉樹には、トチノキ、ケヤキ、ホオノキ、クリ、シナノキ、キハダ、ミズナラ、ブナ、スタジイなどが挙げられます。様々なネットワークを生かして、森の再生を通して三河湾がよりきれいになっていくことを願っております。

 少し視点を変えまして、文学の世界でも、人間を中心に考えるのではなく、人間も自然と同じ視点でとらえる“環境文学”が脚光を浴びています。2003年3月に沖縄で「文学・環境学会全国シンポジウム」が開かれました。“環境文学”の源流は、19世紀のアメリカ文学のヘンリー・ソローの「森の生活」にあり、文学・環境学会代表の山里琉球大学教授は、“環境文学”について「自然を舞台にしたり、描いたりするのが環境文学ではない。地球という生命体の中で、人間とは何かを問いかけるもの。もともと日本人は自然と人間を対立するものととらえないで、万葉集、芭蕉、宮沢賢治など環境文学の枠に収まる作品は多い」と語っています。私は、子供の頃、昆虫が好きで、「ファーブル昆虫記」を読んだことが思い出されました。ファーブル昆虫記は、ふんころがしの話など昆虫の視点から描かれていたような記憶が残っていますが、“環境文学”にあたるのかなと思った次第です。また、虫取りと言えば、早朝から神社にカブト虫やくわがたを取りにいったり、秋にとったかまきりの卵を部屋の中に置いたのもわすれて、翌春に部屋中が体調数ミリのかまきりだけになったりしたことがふと思い出されました。

 最後に、“環境”というキーワードに深くつながっている「森を再生する会」の発足のきっかけとなった“安城まちづくり市民会議”の地元である愛知県安城市の環境に関する取り組みを少し紹介します。安城市が住民主導で環境計画づくりを行ってきたことが、市民団体の「森を再生する会」の発足につながっていったのかも知れません。安城市は、平成12年1月に「環境方針」を定め、安城市役所そのものが平成12年4月に環境マネジメントシステムの国際規格ISO14001を取得し、環境の継続的な保全と改善に取り組んでいます。そして、平成13年3月には、「環境基本条例」を定め、併せて「環境基本計画」を作り、今後の環境施策の基本的な方向を確立しています。また、平成14年3月には、市役所が実践すべき環境配慮行動指針実行計画を作成しています。さらに、今年(平成15年)3月に、平成12年1月に定めた「環境方針」を見直しています。

 環境施策の推進に取り組んでいる市区町村が自主的に応募し、NGO(非政府団体)がその取り組み状況を採点する第2回環境首都コンテストでは、全国115自治体が参加するなか、安城市は11位に入っています。また、愛知県内では、13市町が参加するなか、第1位に輝いています。環境基本条例の制定や環境基本計画の策定段階から住民参画を図り、施策の実施状況をわかりやすく情報公開していることなどが高い評価を受けています。また、第2回環境首都コンテストでは、安城市から市民にわかりやすく親しみやすい「環境報告書」と市民団体と安城市が協働で作成した「環境マップ」、「エコクッキングレシピ集」の3事例が先進事例として紹介され、エコクッキングについては、特別表彰を受けています。あと、同じ県内では、「名古屋市と220万人名古屋市民」が連名で、財団法人社会経済生産性本部から、環境への取り組みを評価する2003年の自治体環境グランプリで表彰(2003年5月20日発表)されています。さらに今回から創設されました環境大臣賞も同時受賞しています。市民、事業者、行政が一体となって、ごみ量を102万トン(1998年度)から76万トン(2001年度)に劇的に減らしたことが評価された模様です。

 また、上の図絵の画像のなかにある“桜井凧保存会”というのは、安城に伝わる凧で、安城の文化・風土を伝え育てていこうと2003年1月17日に発足した会です。私も小学校の頃、桜井凧を教えて頂きながら作って凧をあげたこともあり、会に参加させて頂きました。最近、正月に凧あげなる風景もあまり見られなくなってきていますが、日本にはさまざまな凧の文化があります。安城の桜井凧は、福助、アブ、天神、チョウ、ハチなど袖(風袋)を持った袖凧です。安城市は、昔に比べ田んぼが少なくなったとは言え、まだまだ自然が広がっていますので、地元の凧に興味を持って、田んぼを駆け廻る元気な子供たちが増えることを願っております。自然のなかで、風と遊び駆け廻ることで、子供たちへの環境への関心も自然に育まれていくのではないかと思います。

 今回のコラムでは、“森林”に視点をあてて見てきました。日本の森林が深刻な危機に直面しているなか、今回紹介しました「森を再生する会」のような取り組みは全国各地で起こりつつあります。先月(2003年5月16日)、熊本県で計画中の川辺川ダムの水を利用して、灌漑・区画整理・農地造成をする農水省の国営川辺川土地改良事業に、司法のブレーキがかかりました。ダムが作られる大きな目的に“治水(河川の氾濫(はんらん)を防いだり、水運・灌漑(かんがい)の便をよくしたりすること)”と“利水(河川の水を農業用水や都市用水に利用すること)”があります。ダムに頼らない“利水”に知恵を絞る時代を迎えていますが、“治水”については、世界の潮流は「ダム一本やり」ではなくなってきています。森林の保水力を高めたり、遊水地で受け止めたりして、洪水を流域全体で柔軟にやり過ごす方法が各地で試みられています。今、まさに、ソフト面、ハード面から新たな森林づくりが始まっていると言えます。

By Nagura

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