銅版画家・山本容子さんの作品世界
(美術遊園地)を考察する

記:2002.7.1

 名古屋の松坂屋美術館で開催されました「山本容子の美術遊園地」(名古屋開催:2002年5月1日〜19日)を山本容子の美術遊園地見てきました。今回のコラムでは、リズム感のある画面構成と軽やかな線が印象的な銅版画家・山本容子さんの作品世界を考察します。

 山本容子さんは、1952年に埼玉で生まれ、大阪で育ち、1978年に京都市立芸術大学西洋画専攻科を修了して、この世界に入っています。

 山本容子さんの銅版画は、現在、東京の表参道のルイ・ヴィトン館表参道ビル新築工事期間中1年間(2001年9月1日〜2002年8月31日)、山本容子さんの銅版画作品が光ファイバーで仮囲いや歩道に投影されていますので、見られた方も多いことと思います。この光ファイバーの作品は、ルイ・ヴィトンの歴史にかかわる人物、乗り物から馴染みのある顔まで、毎日1シーンずつ増えていき、道行く人々に日々いろいろな表情を見せてくれるアートプロジェクトです。

 「山本容子の美術遊園地」の名古屋での開催は終わりましたが、全国10カ所を巡回予定であり、まだこれからの開催場所を以下に記載します。お近くの方は、是非行かれてみてはいかがでしょうか。高知市の高知県立美術館で2002年7月21日〜9月16日、和歌山市の和歌山県立近代美術館で2002年9月21日〜11月4日、富山市の富山県立近代美術館で2002年11月9日〜12月25日、福岡市の岩田屋で2003年1月2日〜1月14日、鹿児島市の長島美術館で2003年1月18日〜2月16日、さいたま市のうらわ美術館で2003年2月22日〜3月30日の予定となっています。

 銅版画家・山本容子さんは、数多くの書籍の装画、装丁、映画や音楽イベントのポスターなども手掛けており、美術ファンだけではなく、文学、音楽ファンにも幅広く知られています。また、近年は、銅版画を中心としながら、音楽ホールやホテルの壁画など大掛かりなプロジェクトの取り組み、オペラ「モモ」の舞台美術と衣装を手掛けるなど新しいメディアの試みも見られ、広がりのある作品を生み出し続けています。「山本容子の美術遊園地」の開催された松坂屋美術館に行ったのは、土曜日の午後でしたが、さまざまな年齢層の方が見られました。なかでも、やはり女性の姿が目立ちました。グッズなどを売っているミュージアムショップは、買い求める女性たちで溢れんばかりでした。

 美術館内における山本容子さんの数々の作品(主要な銅版画など約400点を展示)を見てきた中で、印象的なものを挙げていきます。まず、大掛かりなものとしては、皆さんもご記憶にあると思いますが、2000年6月のハノーバー国際万国博覧会EXPO2000の日本館で展示されていた和紙の電気自動車「螢」は彼女の作品で、和紙のクルマとともに、ビデオで作品ができるまでを流していました。メインの銅版画は、学生の頃のスケッチ的なものから色鮮やかなものまで多彩に渡っていました。彼女の版画を見ていますと、笑いというか洒落をきかせた風刺画的なものもあり、独自の世界が広がっているように感じました。また、ガラッと変わって洗練された雰囲気のある世界も広がっています。山本容子という銅版画家として独自の世界が確立されているあたりが、多くの人を引き寄せる魅力になっているのだろうと思います。

 なかでも、本のカバーである装丁ばかりを展示されたところがあり、鮮やかであるとともに、これだけ多くの本のカバーを手掛けていらっしゃったことに驚きました。いつも、書店などでは何気なく見ている本のカバーですが、これだけ一堂に並んでいるとアートだなあとあらためて感じました。そう考えると本屋さんもある意味美術館と言えます。

 一堂に展示された本のカバーには、けっこう見たことがあるものもありました。なかでも、話題になった1989年に刊行された吉本ばなな著の「TSUGUMI」のカバーを覚えていらっしゃる方もいるのではないでしょうか。「TSUGUMI」は鮮やかな花柄の装丁で、本のカバーの鮮やかさには目を見張るものがありました。彼女が、「TSUGUMI」のカバーを手掛けるにあたって、アートをもっと身近に感じて欲しいという願いがあり、書店も一つのギャラリーであるという発想のもと創作活動されたそうです。皆さんも今度本屋に行く際は、本の装丁に注目して、鮮やかなカバーなどのアートの世界を垣間見られてはと思います。

 山本容子さんの世界は、銅版画に留まらず、どんどん広がっていますので、これからどんな新たなアートの世界を切り開いていくのか、楽しみなところです。これからも注目していきたいと思っております。

 最後に、美術の世界の状況を少し述べて終わりにしたいと思います。ここのところ、日本美術が元気なようです。日本の古美術や近代日本画の展覧会にたくさんの鑑賞者が入っているようです。ざっと鑑賞者数を挙げますと、東京・上野の東京国立博物館で2002年2月〜3月にかけて開かれた「横山大観 その心と芸術」展に28万人弱、2002年4月〜5月にかけての「雪舟」展には30万人がつめかけています。「雪舟」展は、東京の前に京都国立博物館でも開催されましたが、こちらでも22万人集めています。かなりの数字ということです。その他、巡回中の「雪村展」も話題になりましたし、奈良国立博物館の「東大寺にすべて」、東京・サントリー美術館などを巡回している「建仁寺」展といった寺宝展も人気を集めています。

 日本美術人気の要因を、昨年のテロの影響で海外旅行にお金を使っていた人々が敬遠して、日本美術を見に行くになったとか、自分の足元文化に目を向けるようになったとか、国立の美術館・博物館が独立法人化になり人の集まる企画を工夫してきたことなど挙げられていますが、理由はともあれ、この人気をきっかけにして、魅力ある日本美術の質をじっくり味わう流れが根付いていくことは良いことと思います。また、先月の視察レポート「中山道の“馬籠宿”を訪ねて」では、日本画壇を代表する画家・東山魁夷について若干取り上げていますので併せてご覧いただけましたらと思います。

 今回のコラムでは、銅版画家・山本容子さんの世界を見てきましたが、「山本容子の美術遊園地」がこれから開催される地域の皆さんには、是非行って堪能して頂きたいと思いますが、先ほど紹介しましたように、近所の本屋さんなどでも身近に山本容子さんの作品を見ることができますので、休みの日でも散歩がてら、ちょっと出かけて見られてはいかがでしょうか。

By Nagura

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